物語編
第三章 第三九話 物語編
第三章 無辺 と 有辺
第三九話 二元に開ける と 一元に閉じる
『欲界の天魔を捕らえ、色界の菩薩と捉えるか。
もう止してもらおう、私は業深き罪人に過ぎない。
持ち上げられても、引き落されるのが、見えている。』
欲に疲れて、志も潰えてしまった、彼を問い詰める。
「愚か者が、恥を知れ、これを慰めと思うのか。
もし、虚飾が欲しいなら、幾らでも与えてやろう。
しかし、それは、真実は何か、明らかにしてからだ。」
「虚構さえ、事実の後に聞くなら、真実となる。
この二元の世界に、裏を伴なわない、表などない。
善しかない至善などなく、悪しかない極悪などない。」
「この真実を知る者しか、欲界を収め切れない。
天界の頂点に立ち、同時に、地獄の底辺を支える。
善人の良き型となる、一方で、悪人の良き型となる。」
「最も貴い者が、最も賤しい処に、降りて行く、
堕天の型が現れないと、欲界の底が抜けてしまう。
無限に善悪が離れて行き、無間の狭間に落ちて逝く。」
「この尊い役を、汝が果さずに、誰が果すのか。
恐れるな、天界の玉座に就き、地獄の底辺を鎖せ。
無限に分るものを、有限に悟ること、これが智慧だ。」