物語編
第三章 第四一話 物語編
第三章 無我 と 真我
第四一話 偽の我がない と 真の我がある
『如何してか解からないが、何故なのか分かる。
この役、誰も努めないと、誰か務めることになる。
しかしだ、この凡夫に、斯様な大役が務まるものか。』
片膝を付いたまま、立ち上らない、彼を問い詰める。
「愚か者が、恥を知れ、これを自力と思うのか。
忘れたか、汝が遣るにあらず、汝は遣われるのみ。
天が許さねば、己がする事など、何ひとつ適わない。」
「もし、我が力を信じて、汝の業と考えるなら、
その途端、我が業が積まれ、汝は罪を重ねていく。
地獄の民を救うどころか、自分の足を掬ってしまう。」
「もし、天の命を信じて、神の業と考えるなら、
その瞬間、我が業が許され、汝は徳を重ねていく。
体は穢土に落ちようとも、心は浄土で安らいでいる。」
「つまり、無作の大善とは、非我の所作である。
無我は、非我ゆえに、消えて行く我のことであり、
真我とは、非我ゆえに、現れて来る空のことである。」
「この尊い命を、汝が享けずに、誰が憂くのか。
恐れるな、天の使命を受けて、我が生命を賭けよ。
無我を見ている、真我を観じている、これが功徳だ。」