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物語編

第三章 第四二話 対話編

CASE 中観 の裏に 唯識

 

マナミ 空論を説く、中観派って、どういうものなの?
マサシ 中観派は、全て空であると、説くことなのさ。
マナミ 唯識を説く、唯識派って、どういうものなの?
マサシ 唯識派は、総て識であると、説くことなのさ。
マナミ う~ん、中観派と唯識派、どちらが正しいの?
マサシ どちらが、正しいではなく、どちらも正しい。
マナミ じゃあ、中観派が正しいって、どういうこと?
マサシ あらゆる、二元の観じ方は、実体が無いのさ。
マナミ じゃあ、唯識派が正しいって、どういうこと?
マサシ いかなる、一元の感じ方も、実感が有るのさ。
マナミ すると、観じるから中観、感じるから唯識ね。
マサシ うん、実感は空だけど、空の実感があるのさ。
    つまり、一切は空、という、唯一の識がある。
マナミ 中観派は、前半を説いて、真理と解くけど、
    唯識派では、後半を解いて、真理と説くのね。
マサシ そうさ、どちらも、真理を説いているだけさ。
マナミ せっかく、分かりやすく、解いてくれたのに、
    一方に、囚われたから、別けてしまったのね。
マサシ 今回こそ、解かりやすく、説いたつもりだよ。
マナミ ……………………!!

 


 

CASE 非 想 非 非 想 処

 

サトシ 有頂天、非想非非想処って、どういうもの?
アツシ 有頂天とは、想に関わる、無色界のことだな。
サトシ 此処って、一元だけど、どんな一元なのかな?
アツシ 思うでもなく、想わないでもない、境地だな。
サトシ 其処まで、認めてないなら、完全な一元だね。
アツシ 残念ながら、実際の所は、そうでもないんだ。
サトシ どうして、何も認めないで、一元じゃないの?
アツシ 実際に、何もかも思わないと、見とめるとき、
    裏で、思わないとも想わないと、認めている。
サトシ 確かに、欲も型もない、一元の世界だけど、
    潜在的に、二元に落ちる、可能性が有るわけ?
アツシ ああ、何もかも想わないと、思っていると、
    いずれ、想わずと思わないと、想ってしまう。
サトシ それなら、真の一元に入るには、どうするの?
アツシ 思い込もうと想えば、その反対が埋まれて、
    想い込むまいと思えば、また反対が埋まれる。
サトシ 思い込んでもだめで、想い込まないでもだめ。
    これじゃ、きりがないよ、どうしたら良いの?
アツシ もう、諦めてしまえよ、このままで良いよな。
サトシ ……………………!!

 


 

CASE 唯識なき中観 と 中観なき唯識

 

サトミ 中観と唯識、どちらを、重んじるべきかな?
メグミ どちらも、同じぐらいに、重んじるべきなの。
サトミ 空性を説く、中観説は、どういうものかな?
メグミ 中観説は、実体が無いと、そう説くことだよ。
サトミ 唯識を説く、唯識説は、どういうものかな?
メグミ 唯識説は、実感が有ると、そう説くことだよ。
サトミ 中観を望み、唯識に臨まないと、どうなるの?
メグミ 唯識なき中観なんて、唯の唯識に過ぎないよ。
サトミ じゃ、実体が無いって、否定に徹しているの?
メグミ そうよ、否定が過ぎると、肯定に転じるのよ。
サトミ 唯識を望み、中観に臨まないと、どうなるの?
メグミ 中観なき唯識なんて、只の中観に過ぎないよ。
サトミ じゃ、実感が有るって、肯定に徹しているの?
メグミ そうよ、肯定が過ぎると、否定に転じるのよ。
サトミ 中観だけでは、想を撤して、想に徹するし、
    唯識ばかりでは、想に徹して、想を撤するの?
メグミ うん、中観と唯識、その両方が、必要なのよ。
サトミ じゃあ、唯識を究め、中観を極めていくの?
メグミ そうなの、中観を超え、唯識を越えていくの。
サトミ ……………………!!

 


 

CASE 龍 樹 菩 薩

 

サトシ あのね、龍樹菩薩って、どういうものかな?
マサシ それはね、釈迦牟尼の後、人の世に現われて、
    空の教えを、解き明かした、菩薩のことだよ。
サトシ 釈尊が説いた、縁起って、どういうものかな?
マサシ 縁起の法は、因果が有ると、一切を見るのさ。
サトシ 龍樹が解いた、中観って、どういうものかな?
マサシ 中観の派は、実体が無いと、一切を見るのさ。
サトシ 先ず、因果が有るから、分別が有ると説き、
    後から、分別が有るけど、実体は無いと解く?
マサシ いきなり、空まで解いたら、不安を生むのさ。
サトシ つまり、善悪が有るのか、善悪が無いのか、
    実体なき、空まで触れると、不穏が生じるの?
マサシ 善悪が、移り変わっていくと、説いていたら、
    世の人は、何に拠るべきか、解らなくなるよ。
サトシ 龍樹が、釈尊から遅れて、世に現れたのは、
    人の世に、法が広まるのを、待ち続けたのか。
マサシ そうさ、業が充ちないと、引っ繰り返せない。
サトシ この教え、僕の考えを、軽く越えてきたよ。
マサシ まあね、時が満ちるまで、待ち続けたからね。
サトシ ……………………!!

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