物語編
第三章 第四三話 物語編
第三章 転生 と 解脱
第四三話 二元に止まる と 一元に止まる
『そうか、痛感したとはいえ、実体のないこと。
悔い改めない、罪の意識は、自己愛に過ぎないか。
観じられた罪は、いつまでも、罪に感じなくて良い。』
彼は、背を伸ばし、目を閉じて、このように言った。
『天は、死んで罪を償えとは、決して言わない。
逆に、苛酷に生き長らえて、罪を活せと言われる。
たとえ、死を選んだとしても、生も択ばされている。』
『その死が、輪廻の死、一元の涅槃であっても、
一人だけ、死んでいることは、許されないようだ。
他の者が居る限り、遣るべきことが、遺されている。』
『私が愛す者のため、また、私を憎む者のため、
まだ、知らない者のため、私は生きねばならない。
輪廻を繰り返し、世界を知り尽くさないとならない。』
『すると、涅槃と輪廻を越えた、完全なる涅槃、
大いなる輪廻の後から、大いなる涅槃が顕われる。
輪廻と涅槃と不二と見る、完全なる解脱が現われる。』
『ひとつの、欲界と色界を越える、小さな解脱。
数え切れない、輪廻と涅槃を越える、大きな解脱。
まだ、私は、ひとつの限界を、垣間見たに過ぎない。』