物語編
第三章 第四四話 物語編
第三章 執念 と 断念
第四四話 念が切れない と 念が断たれる
閉されていた、彼の両目が、再び開かれたとき、
彼の目には、以前より増した、輝きが戻っていた。
天命を抱いて、時を先に進める、覚悟が感じられる。
『我が師よ、生まれ変わり、輪廻に戻りました。
我が身命を懸けるべき、我が天命を指し示し給え。
これより、我が罪を活かすため、世の型を演じよう。』
私の悔い改めは、彼の悔い改めの呼び水となり、
彼の気づきは、新たな私の気づきを呼び覚ました。
二人が果すべき、宿縁の契約が我が口より発される。
「我らは、あの色界に埋まれる、型を描くため、
太古に、この欲界に生まれた、智慧の菩薩である。
是までも、そして是からも、型を外れる生れはない。」
「善き天界は、楽しみ過ぎて、苦しみに欠けて、
悪しき地獄では、苦しみ余って、楽しみに乏しい。
徒に苦楽を味わい、無智に覆われ、智慧を磨けない。」
「欲界を創った梵天は、この様を大いに悲しみ、
善趣と悪趣の狭間に、この人の世界を創り出した。
人間界とは、苦楽半々、知恵を磨く修行の場である。」