物語編
第三章 第四九話 物語編
第三章 念 と 禅
第四九話 狭めて定める と 広げて定める
「天が、秘密を持って、欲界を収めているよう、
汝も、密教を以って、人界を治めなければならぬ。
難しいが、誰かが負わねば、三千世界は修まらない。」
「底辺に近い者には、説いていれば良かったが、
頂点に近づくにつれて、解かないとならなくなる。
徒に法に囚われていると、いずれ業に腐ってしまう。」
「責任が小さい時は、積んでいれば良かったが、
役目が大きくなるほど、摘まないとならなくなる。
闇雲に善を積んでいると、いずれ悪に詰んでしまう。」
「もとより、この欲の世界には、実体など無い。
それゆえ、この世を治めるために、説かれた戒は、
治めた後に、解いておかないと、収め切れなくなる。」
「法徳よ、汝は、いささか、法に囚われ過ぎた。
それ故、釣り合いを取るため、次は解く側に回れ。
私が表で説く戒を、汝は裏で解く役を、担うが良い。」
「行うなと説いている、その横で行えと解けば、
知恵が実らない者は、意味が解らなくなるだろう。
それゆえ、汝は、横に侍らず、裏に回るべきである。」
「煩悩肯定の天魔として、汝は正道に厭われる。
しかし、全てが終った後に、私が栄光を与えよう。
汝が解かないと誰も説けない、知恵の実であったと。」