物語編
第三章 第五二話 物語編
第三章 掉挙 と 昏沈
第五二話 心が焦り出す と 心が沈み込む
「我は、小さな器に対して、不邪淫の戒を説く。
汝は、大いなる器に向かって、不邪淫の戒を解け。
つまり、個の為には淫すな、公の為には乱せと解け。」
「法徳よ、我が為に淫れたなら、如何なるのか。」
『我が師よ、他の愛を汚せば、我が愛も穢される。
憎み合う、害が増えて逝くから、総じて害が殖える。』
「法徳よ、我が為に淫れないと、如何なるのか。」
『我が師よ、他の愛を守れば、我が愛も護られる。
悪み合う、害が減って行くから、総じて利が増える。』
「法徳よ、他の為に乱れないと、如何なるのか。」
『我が師よ、愛が閉されると、愛が狭まっていく。
情の壁に阻まれて、内は暖かいも、外が冷えていく。』
「法徳よ、他の為に乱したなら、如何なるのか。」
『我が師よ、愛を鎖さないと、愛が広がっていく。
操の壁が崩されて、内は覚めても、外が温かくなる。』
「個の為には、淫れない法が、善かったものが、
公の為になると、乱れない方が、悪くなっていく。
この絡繰りは、修めても気づかず、治めて気づける。」
「それゆえ、友を愛す者から、愛を取り上げよ。
敵を憎む者が、友を憎んでいる、罠を作り上げよ。
覚め切った愛で、人の情を越える、神の家に仕えよ。」