第三章 第五一話 対話編
CASE 穢土 の裏に 浄土
マナミ ねぇ、サハー、穢土は、どういうものなの?
マサシ 穢土とは、煩悩に塗れた、不浄の地のことさ。
マナミ 小乗の段は、穢土を嫌って、浄土を求めるの?
マサシ そうさ、煩悩を否定して、涅槃に至るからね。
マナミ 小乗では、浄土を見つめて、何が培われるの?
マサシ 悪しき縁を、見とめないから、清浄が表れる。
マナミ 清浄なる目で、世界を捕えると、何が見える?
マサシ 穢土で苛む、縁ある者の姿が、見えてくるよ。
マナミ クシェートラ、浄土は、どういうものなの?
マサシ 浄土とは、煩悩を越えた、清浄な地のことさ。
マナミ 大乗の段は、穢土を救って、浄土を求めるの?
マサシ そうさ、煩悩を肯定して、涅槃に到るからね。
マナミ 大乗では、穢土を見つめて、何が培われるの?
マサシ 全ての縁を、認めていくから、智徳が現れる。
マナミ 智慧ある眼で、世界を捉えると、何が見える?
マサシ 穢土を彩る、縁ある者の姿が、見えてくるよ。
マナミ 煩悩も、我が条件で見ると、汚らしいけど、
他を救う、他の条件で見ると、美しいわけね。
マサシ そうさ、それが解かるのは、大乗の菩薩だけ。
マナミ ……………………!!
CASE 穢土 の先に 浄土
サトミ 業に塗れる、穢土って、どういうものかな?
メグミ 穢土とは、汚い心が見る、穢い地のことだよ。
サトミ 汚く見える、穢れた心って、どういうもの?
メグミ 煩悩に塗れて、浄いと汚いに、分ける心だよ。
サトミ 業を越える、浄土って、どういうものかな?
メグミ 浄土とは、清い心が見る、浄い地のことだよ。
サトミ 清く見える、浄まる心って、どういうもの?
メグミ 煩悩を越えて、総てを浄いと、合せる心だよ。
サトミ う~ん、煩悩に塗れる、此岸が穢土であり、
逆に、煩悩を越える、彼岸が浄土じゃないの?
メグミ ううん、此岸だから穢土、彼岸だから浄土。
固定的に、捕える心こそが、穢土の因なのよ。
サトミ じゃあ、穢土に臨まずに、浄土を望んでも、
逆に、浄土に臨めない、そういう仕掛けなの?
メグミ そうよ、彼岸であろうと、此岸であろうと、
すべてを、受け容れる心が、何より浄いのよ。
サトミ じゃあ、浄土の世界を、外に求めているけど、
最終的に、眼前の世界に、内に戻ってくるの?
メグミ うふっ、正しく見ると、煩悩が落ちて来るね。
サトミ ……………………!!
CASE 浄土 という 穢土
サトシ あ~あ、学校は嫌だな、早く社会に出たいよ。
マナミ どうして、あなたは、そんなことを言うの?
サトシ だって、学校より、社会の方が楽そうだから。
マナミ そういう、あなたは、社会を知っているの?
サトシ 知らないよ、それでも、学校より楽そうだよ。
マナミ 今が、楽しくないと、何処も楽しくないの。
楽しい、楽しくないは、自分が決めているの。
サトシ 詰まらないと、決めているのは、自分だから、
何を見ても、何処に行っても、詰らなくなる?
マナミ うん、心の奥底に、不満を抱えているかぎり、
たとえ、何をしても、詰らなくなってくるの。
サトシ 誰が見ても、楽しいものは、何処にもないの?
マナミ うん、心が変わらないと、何も変わらないの。
今いる、処を楽しめないと、何も愉しめない。
サトシ じゃ、学校を愉しめずに、社会も楽しめない?
マナミ きっと、社会に出てからも、文句を言うの。
サトシ もう、そんな考え方して、詰まらなくないの?
きっと、楽しい場所が、何処かに在る筈だよ。
マナミ うん、心から詰まるまで、探し回れば良いの。
サトシ ……………………
CASE 浄土なき穢土 と 穢土なき浄土
サトミ 穢土と浄土、どちらを、重んじるべきかな?
メグミ どちらも、同じぐらいに、重んじるべきなの。
サトミ 此岸のこと、穢土って、どういうものかな?
メグミ 穢土とは、総じて苦しい、この世のことだよ。
サトミ 彼岸のこと、浄土って、どういうものかな?
メグミ 浄土とは、総じて楽しい、あの世のことだよ。
サトミ 穢土を望み、浄土に臨まないと、どうなるの?
メグミ 浄土のない穢土なんて、気枯れに過ぎないよ。
サトミ じゃ、晴れが無くなると、気が枯れるのかな?
メグミ そうよ、気が枯れてしまい、穢れになるのよ。
サトミ 浄土を望み、穢土に臨まないと、どうなるの?
メグミ 穢土のない浄土なんて、気後れに過ぎないよ。
サトミ じゃ、褻が無くなるほど、気が腫れるのかな?
メグミ そうよ、気が張ってしまい、遅れになるのよ。
サトミ 穢土だけでは、平常ばかりで、気が枯れる。
浄土ばかりでは、非常ばかりで、気が後れる。
メグミ うん、穢土と浄土、そのどちらも、必要なの。
サトミ じゃあ、浄土に依り、穢土に拠っていくの?
メグミ そうなの、穢土を究め、浄土を極めていくの。
サトミ ……………………!!