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物語編

第三章 第五五話 対話編

CASE 与楽 の裏に 抜苦

 

マナミ ねぇ、メッター、与楽は、どういうものなの?
マサシ 与楽は、慈の心であり、他に楽を譲ることさ。
マナミ どうして、他の楽しみを、我が喜びとするの?
マサシ 自らの楽は、捕われるほど、減っていくけど、
    他の楽しみは、囚われるほど、増えるからさ。
マナミ 他を介して、楽を譲るけど、楽を増やしたの?
マサシ 外にある、楽は減るけど、内なる楽は増える。
マナミ じゃ、カルナー、抜苦は、どういうものなの?
マサシ 抜苦は、悲の心であり、他の苦を負うことさ。
マナミ どうして、他の苦しみを、我が憂いとするの?
マサシ 自らの苦は、捕われるほど、増えていくけど、
    他の苦しみは、囚われるほど、減るからだよ。
マナミ 他を介して、苦を負うけど、苦を減らしたの?
マサシ 外にある、苦は増すけど、内なる苦は減るよ。
マナミ つまり、他の者という、外のものを介して、
    逆説的に、内なるものに、目を向けているの?
マサシ そうさ、他を介することで、我を解していく。
マナミ 他を救い、我を救えるなんて、意外だったの。
マサシ そもそもが、総べて自分だから、当然なのさ。
マナミ ……………………!!

 


 

CASE 与楽 の先に 抜苦

 

サトミ 楽を与える、与楽って、どういうものかな?
メグミ 与楽とは、慈愛を持って、他を扶けることよ。
サトミ じゃあ、他が求めるものを、与えてあげるの?
メグミ そうだね、初めのうちは、そうすれば良いよ。
サトミ そうやって、与え続けると、どうなるのかな?
メグミ 甘えてしまい、他の苦しみが、増えていくよ。
サトミ 自らの力で、楽を得るまで、育てるべきなの?
メグミ そうだよ、真の与楽とは、育て上げることよ。
サトミ 苦を除ける、抜苦って、どういうものかな?
メグミ 抜苦とは、悲哀を以って、他を助けることよ。
サトミ じゃあ、他が避けるものを、除いてあげるの?
メグミ そうだね、初めのうちは、そうすれば良いよ。
サトミ そうやって、除き続けると、どうなるのかな?
メグミ 縋ってしまい、他の楽しみが、減っていくよ。
サトミ 自らの力で、苦を御すまで、育てるべきなの?
メグミ そうだよ、真の抜苦とは、育て上げることよ。
サトミ 初めは、他に合わせるけど、合わせ過ぎると、
    他の為に、成らないから、育て上げていくと。
メグミ これからは、合せなくても、大丈夫なのかな?
サトミ ……………………

 


 

CASE 与楽 という 抜苦

 

サトシ 衆生の愛情、与楽って、どういうものかな?
アツシ 与楽とは、衆生が考える、楽を与えることだ。
サトシ 衆生が考える、楽って、どういうものかな?
アツシ 我が望むものに、自らが、臨んでいることだ。
サトシ それなら、望むものに、臨ませようとするの?
アツシ そうだ、臨むものを変え、楽を与えるわけだ。
サトシ 衆生の同情、抜苦って、どういうものかな?
アツシ 抜苦とは、衆生が考える、苦を除けることだ。
サトシ 衆生が考える、苦って、どういうものかな?
アツシ 我が拒むものに、自らが、臨んでいることだ。
サトシ それなら、拒むものに、臨ませまいとするの?
アツシ そうだ、臨むものを変え、苦を除けるわけだ。
サトシ すなわち、与楽であろうと、抜苦であろうと、
    衆生は、臨んでいる物を、変えようとするの?
アツシ ああ、楽を足すことで、苦を引こうとする。
    つまり、与楽という抜苦、楽を見つめている。
サトシ 苦しみは、望んでなくても、臨んでいくから、
    苦を負わず、楽を追うことで、苦を紛わすの?
アツシ 情と嘆で、この世を見ると、そうなるわけだ。
サトシ ……………………!!

 


 

CASE 抜苦 という 与楽

 

サトシ 菩薩の慈愛、与楽って、どういうものかな?
アツシ 与楽とは、菩薩が考える、楽を与えることだ。
サトシ 菩薩が考える、楽って、どういうものかな?
アツシ 他が臨むものを、彼らが、望んでいることだ。
サトシ それなら、臨むものを、望ませようとするの?
アツシ そうだ、望むものを変え、楽を与えるわけだ。
サトシ 菩薩の悲哀、抜苦って、どういうものかな?
アツシ 抜苦とは、菩薩が考える、苦を除けることだ。
サトシ 菩薩が考える、苦って、どういうものかな?
アツシ 他が臨むものを、彼らが、拒んでいることだ。
サトシ それなら、臨むものを、拒ませまいとするの?
アツシ そうだ、拒むことを止め、苦を除けるわけだ。
サトシ すなわち、与楽であろうと、抜苦であろうと、
    菩薩は、望んでいる者を、変えようとするの?
アツシ ああ、苦を引くことで、楽を足そうとする。
    つまり、抜苦という与楽、苦を見つめている。
サトシ 楽しみは、望んでなくても、臨んでいくから、
    楽を追わず、苦を負うことで、空を広げるの?
アツシ 慈と悲で、この世を見ると、そうなるわけだ。
サトシ ……………………!!

 


 

CASE 抜苦なき与楽 と 与楽なき抜苦

 

サトミ 与楽と抜苦、どちらを、重んじるべきかな?
メグミ どちらも、同じぐらいに、重んじるべきなの。
サトミ 楽を与える、与楽って、どういうものかな?
メグミ 与楽とは、衆生の良くを、適えることなのよ。
サトミ 苦を抜かす、抜苦って、どういうものかな?
メグミ 抜苦とは、衆生の解くを、叶えることなのよ。
サトミ 与楽を望み、抜苦に臨まないと、どうなるの?
メグミ 抜苦なき与楽なんて、唯の与苦に過ぎないよ。
サトミ じゃ、良くを適えても、解くを叶えないの?
メグミ そうよ、解くが叶わずに、飽くが増すだけよ。
サトミ 抜苦を望み、与楽に臨まないと、どうなるの?
メグミ 与楽なき抜苦なんて、只の抜楽に過ぎないよ。
サトミ じゃ、解くを叶えても、良くを適えないの?
メグミ そうよ、良くが適わずに、空くが広がらない。
サトミ 与楽だけでは、徳が無くて、苦が摘めないし、
    抜苦ばかりでは、欲が無くて、徳が積めない。
メグミ うん、与楽と抜苦、その両方が、必要なのよ。
サトミ じゃあ、抜苦に依り、与楽に拠っていくの?
メグミ そうなの、与楽を究め、抜苦を極めていくの。
サトミ ……………………!!

 


 

CASE 抜 苦 与 楽

 

サトシ 菩薩の行、抜苦与楽は、どういうものかな?
マサシ 菩薩行とは、苦を抜いて、楽を与えることさ。
サトシ それなら、衆生の苦しみを、抜いてあげて、
    さらに、衆生に楽しみを、与えればいいのか。
マサシ うん、そうなんだけど、そんな簡単じゃない。
サトシ う~ん、そうかなあ、簡単に見えるけどね。
    他の人が、喜ぶことを、行えば良いだけだよ。
マサシ じゃあ、依存症の人々に、麻薬を与えたら?
サトシ 快楽を授けたら、楽を与えたことになるし、
    禁断症状が消えて、苦を抜いたことになるね。
マサシ じゃあ、漂流中の人々に、海水を与えたら?
サトシ 水分を授けたら、楽を与えたことになるし、
    脱水症状が消えて、苦を抜いたことになるね。
マサシ たとえ、そうだとしても、一時的に過ぎない。
    ますます、楽は減っていき、苦は増えていく。
サトシ 本当だ、智慧が無ければ、反対に為るわけか。
マサシ うん、抜苦与楽こそが、菩薩の永遠の課題さ。
サトシ そっか、智を磨きながら、抜苦与楽に挑むと。
マサシ うん、菩薩の道は長い、永久に続く道なのさ。
サトシ ……………………!!

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