物語編
第三章 第六十話 物語編
第三章 妄語 と 正語
第六十話 妄りに騙る業 と 正しく語る法
「さて、以上が、汝が果たすべき、天命である。
非がないほど賢くなく、認めないほど愚かでない、
神の使徒の役を果せるか、暗黒の魔の時を刻めるか。」
思い当たる節があった、彼は笑いながら言った。
『師には、我が心の闇が、手に取る様に見えよう。
私とて、人を育てることに、異論は持っていません。』
明るく答えた彼に、不思議な懐かしさを覚えた。
たった、七日の間に、積み込めるだけ詰め込んだ、
凝縮した、時の流れを、深い記憶が感じ取っていた。
「法徳、君は西方へ向かえ、私は北方に向かう。
君は、イシヤを務め、王国を築き、神殿を建てよ。
自分は、メシアを連れ、王冠を奉げ、神意を確める。」
「次は、君が築き上げた、王国で会えるだろう。
君は、イシヤとして、九分九厘の仕組を、整えよ。
其処に、メシアが、一厘の仕組を加え、十分となる。」
『その時が、何時になるか、尋ねはしませんが、
我が命が、果された時に、その時は訪れましょう。
必ずや、救世主を連れ給え、我は独り深淵にて待つ。』
彼の目に、真剣さは有ったが、悲壮さは無かった。
むしろ、古巣に漸く帰って来た、歓喜を宿していた。