第四章 第十話 対話編
CASE 独善 の裏に 親善
マナミ 独り善がり、独善って、どういうものなの?
マサシ 独善とは、成立の条件が、狭い善のことだよ。
マナミ 条件が狭く、変り易い善は、どういうもの?
マサシ 自らには善く、周りには悪い、善のことだよ。
マナミ 我がままに、独善を積むと、どうなるのかな?
マサシ 悪を積むから、どんどん、苦しくなっていく。
マナミ 親しく善い、親善って、どういうものなの?
マサシ 親善とは、成立の条件が、広い善のことだよ。
マナミ 条件が広く、変り難い善は、どういうもの?
マサシ 自らにも善く、周りにも善い、善のことだよ。
マナミ 皆のために、親善を積むと、どうなるのかな?
マサシ 善を積むから、どんどん、楽しくなっていく。
マナミ そうすると、善人にしても、悪人にしても、
当の人は、善を為していると、思っているの?
マサシ そうさ、善を行なったのか、悪を為したのか、
周りから、顧みなければ、解からないものさ。
マナミ 例えば、正義を掲げた、凶悪事件が起るけど、
当人には、偽善ではなく、善に見えているの?
マサシ そうさ、周りを悪と断じる、独善そのものさ。
マナミ ……………………!!
CASE 独善 の先に 親善
サトミ 条件が狭い、独善って、どういうものかな?
メグミ 独善とは、自他で異なる、狭い善のことだよ。
サトミ 我に善くて、他に悪いとき、どうなるのかな?
メグミ 善と悪が、他を介すると、入れ代わり易いよ。
サトミ つまり、善と思ったものを、悪と想うのかな?
メグミ そうだよ、独善を働くと、悪い業を積むのよ。
サトミ 条件が広い、親善って、どういうものかな?
メグミ 親善とは、自他で等しい、広い善のことだよ。
サトミ 我に善くて、他に善いとき、どうなるのかな?
メグミ 善と悪が、他を介しても、入れ替わり難いよ。
サトミ つまり、善と思ったものは、悪と想わないの?
メグミ そうだよ、親善に動くと、善い業を積むのよ。
サトミ そうすると、善業にしても、悪業にしても、
当人にすれば、善業を積んだ、積もりなのね?
メグミ そうよ、だから、善を積むのは、難しいのよ。
サトミ あたしは、誰から見ても、善いことをしたい。
メグミ 残念だけど、絶対善なんて、何処にも無いよ。
サトミ そうかな、探し出せていない、だけじゃない?
メグミ 仮に有ったとしても、それこそ、独善だよね。
サトミ ……………………
CASE 独善 という 親善
マナミ 善人にしても、悪人にしても、どんな人も、
欲を持って、自分の善を、突き詰めているの。
サトシ 善い人が、積み重ねる善は、どういう善なの?
マナミ 自分に善く、他人に善い、親善を究めるの。
サトシ 悪い人が、詰み重ねる善は、どういう善なの?
マナミ 自分に善く、他人に悪い、独善を極めるの。
サトシ 善い人が、親善を重ねると、どうなるのかな?
マナミ 周りが、楽しくなるから、自らも楽しくなる。
サトシ 悪い人が、独善を重ねると、どうなるのかな?
マナミ 周りが、苦しくなるから、自らも苦しくなる。
サトシ どうして、苦しくなるのに、独善を働くの?
マナミ 本人は、良くなる筈って、思い込むからなの。
サトシ 他の人が、教えてあげれば、良いだけだよね?
マナミ ううん、欲の一番下から、欲の一番上まで、
自ずから、突き詰めないと、受け容れないの。
サトシ それは、教え方が上手くない、だけじゃない?
マナミ わたしの、教え方が下手なだけ、ということ?
サトシ う~ん、申し訳ないけど、僕は認められない。
マナミ ほら、突き詰めないと、受け容れられないの。
サトシ ……………………
CASE 親善 という 独善
マナミ たとえ、悪人であろうと、善を求めているの。
サトミ 嘘よ、悪人なんだから、悪を企んでいるわよ。
マナミ それは、他人から見える、悪いことであり、
一貫して、本人から見たら、善いことなのよ。
サトミ 自分は、善いことをしてると、思っていても、
実は、悪いことをしている、可能性があるの?
マナミ だから、自分のことを、善と思っているほど、
途方もない、悪を仕出かす、危険性が有るの。
サトミ 正義の名の下、大量の虐殺を侵したりとか、
聖戦の旗の許に、極悪の非道を犯したりとか。
マナミ うん、人と比べて、自分が善いと思う時ほど、
独り善がりでないか、振り返る必要があるの。
サトミ なるほど、どう考えても、自分が正しいと、
思っているときこそ、独善に嵌っちゃうのね。
マナミ 他が及ばない、独り善がりという点において、
最低の悪人でも、最高の善人でも、同じなの。
サトミ なるほど、この話、ここだけの秘密にしない?
二人で、最高の秘儀を、独り占め出来るわよ。
マナミ いま、善いことしてると、思っているでしょ。
サトミ ……………………
CASE 親善 と 至善 と 独善
マサシ 善が生まれると、裏に、悪が埋まれている。
条件が変わるとき、善と悪が入れ替わるのさ。
サトシ 善は善でも、変り易いのは、どういう善かな?
マサシ 自分には善く、他人には悪い、独善なのさ。
条件が狭いから、不安定であり、悪に変わる。
サトシ 善は善でも、変り難いのは、どういう善かな?
マサシ 自分にも善く、他人にも善い、親善なのさ。
条件が広いから、安定的であり、善に留まる。
サトシ つまり、親善を重ねて行けば、善いわけだね。
どんどん、善が究められて、最善に至るから。
マサシ じゃあ、その最善に至ったら、どうなるかな?
サトシ それより、善いことが無い、至善になるよね。
マサシ 善を重ねて、急に善いことが、無くなったら?
サトシ 不自然だから、自然になるまで、遣り直すよ。
マサシ 良くとは、飽くまで、自然になる道だから、
至善までに、欲を越えないと、不自然になる。
サトシ なるほど、自然になる道は、良く出来ている。
マサシ そうさ、良く見えるのは、善を重ねた証だよ。
自ずから、善く重ねたから、良く見えるのさ。
サトシ ……………………!!
CASE 親善なき独善 と 独善なき親善
サトミ 独善と親善、どちらを、重んじるべきかな?
メグミ どちらも、同じぐらいに、重んじるべきなの。
サトミ 悪業を積む、独善って、どういうものかな?
メグミ 独善とは、他を悲しませ、自らが喜ぶことよ。
サトミ 善業を積む、親善って、どういうものかな?
メグミ 親善とは、他を歓ばせて、自らが喜ぶことよ。
サトミ 独善を望み、親善に臨まないと、どうなるの?
メグミ 親善なき独善なんて、唯の凶悪に過ぎないよ。
サトミ じゃ、他を悲しませて、独り喜んでいるの?
メグミ そうよ、それを見とめて、血も涙もないのよ。
サトミ 親善を望み、独善に臨まないと、どうなるの?
メグミ 独善なき親善なんて、只の独善に過ぎないよ。
サトミ じゃ、他を歓ばせても、誰か悲しんでいるの?
メグミ そうよ、それを認めない、独り善がりなのよ。
サトミ 独善だけは、自分からだけ、善に見えるし、
親善ばかりは、何処からかは、悪に見えるの?
メグミ うん、独善と親善、その両方が、必要なのよ。
サトミ じゃあ、親善を究め、独善を極めていくの?
メグミ そうなの、独善を超え、親善を越えていくの。
サトミ ……………………!!