物語編
第四章 第十五話 物語編
第四章 快苦 と 皆楽
第十五話 利己に向かう と 利他に向かう
私は、無言を貫いたまま、彼に応えないでいた。
朝日が、辺り一面に広がり、地が浮かび上がった。
先まで居た村が、点景ではあったが、確認が出来る。
〈貴様は、このまま、黙り続ける事が出来れば、
業が落ちて、すべてが、解決すると思っていよう。
兎にも角にも、自分だけ、解脱できると想っている。〉
〈未だ、この輪廻で、衆生が苦しんでいるのに、
自分だけ、涅槃に安らいでも、良いと考えるのか。
総べて、無かったことになると、貴様は考えるのか。〉
〈笑止だ、我を消そうとも、罪が消えるものか。
たとえ、汝が忘れようと、他は忘れることはない。
汝の所業は、他の記憶に刻まれ、他の干渉で蘇える。〉
〈たとえ、涅槃の地に、独りで至ったとしても、
まさに、斯くの如く、我が汝に為しているように、
他の者が、忍び込んで、輪廻まで引き摺り戻される。〉
〈たとえ、逃げようと、我からは逃れられない。
これは、他の干渉に見え、他からの干渉ではない。
我が命は、汝の命そのもの、汝の天命に他ならない。〉