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物語編

第四章 第十六話 物語編

第四章    煩悩   と   菩提
第十六話 楽しいを望む と 苦しいに臨む

 

私が、無言に徹しながら、下界を眺めていると、
じっと、私の目を見つめて、男は私の前に回った。
しばらく、見守ってから、私に、このように訴えた。

 

欲に訴えようと、情に訴えようと、捕われず、
論で訴えようと、全く囚われない、ここ迄は見事。
すでに貴様は、涅槃に居ると言って、過言ではない。

 

然りとて、斯様な涅槃は、入り口に過ぎない。
生と死の、浅い輪廻を超える、涅槃に臨まないで、
涅槃と輪廻、深い輪廻を越える、涅槃を望むべきだ。

 

即ち、輪廻に居ながらに、涅槃に安らぐこと。
人の苦しみを、我が苦しみに変えて、受け容れて、
自らの苦しみを、自らの喜びと化して、突き詰める。

 

若し、利己に止まれば、他からは修められず、
逆に、利他に広げれば、他の我からも収められる。
つまり、一度の生をして、何倍も経験が与えられる。

 

こうして、衆生を救う、欲を抱き生まれ落ち、
衆生の済度を、繰り返して、智と徳を磨き上げる。
これこそが、菩薩の道であり、次に向かう道である。

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