物語編
第四章 第二三話 物語編
第四章 不動 と 平等
第二三話 心から捨てる と 他から離れる
すると、男は、私の足元に、短剣を投げて寄こした。
〈汝と俺とは、同じ命を享けて、生まれている。
汝が死ねば、俺に生まれ変わって、命を果たして、
俺が死ぬなら、汝に産まれ換わって、命を遂げよう。〉
〈汝には、別の命に見えている、かもしれない。
しかし、俺には、汝と俺が、同じ命に見えている。
自と他の別や、生と死の境は、仮のものに過ぎない。〉
〈汝が、命を果たす時は、俺が命を捧さげよう。
さあ、役を演じるなら、汝の手で俺を殺すが良い。
悪魔に見えている、俺は、貴様の邪魔だろうからな。〉
そんな、そんな訳がない、邪魔な筈があろうか。
私が、求めて止まなかった、仏陀が眼の前にいる。
仏陀を遠ざけていたのは、私自身に他ならなかった。
私は、涙を流しながら、救世主の足元に跪いた。
そして、決して、作為的に犯した、罪ではないが、
欲を持つ者が、必ず犯す運命になる、罪を懺悔した。
私は、救世主を望むという、大いなる欲を抱き、
世間を、巻き込んだため、欲塗れにしてしまった。
この始末を付けない限りは、涅槃に至る道理がない。