物語編
第四章 第二五話 物語編
第四章 本有 と 中有
第二五話 生きている間 と 死んでいる間
次の瞬間、岩屋の中で、私は独り目を覚ました。
幾筋ものの、浄化の涙が、頬を伝わり滴り落ちて、
こびり付いた、無智の垢が、洗い浄められて行った。
体感的に、そんな時間は、経っていなかったが、
現実的には、長らく時間が、過ぎていたのだろう。
我が身は、筋が削ぎ落とされ、上手く動かなかった。
岩戸の外に、実に久し振りに、私が姿を現すと、
居ないことが、当り前になった、存在が表われて、
外に居た人々は、多様なる意味で、驚き惑っていた。
勿論、私の復活を、心から歓んでいた者もいた。
しかし、同じ数だけ、腹から喜んでない輩もいた。
私が、消え去った世は、勝手な思惑が蔓延っていた。
真の理は、在りのままで、我が利には使えない。
真理を騙り、思いのままに、遣いたいだけの者は、
愚直にも、真理だけ語る者を、煙たがることだろう。
この中には、理に臨まず、利を望む者もいるが、
それは決して、彼らの咎ではなく、我が罪である。
私が居ない間に、型は失われて、形ばかりと化した。
真理は、絵に描いた餅に、なってしまっていた。
どうして、そんな中で、理に臨む者が現れようか。
人々が、利を望んでしまうのは、致し方の無い事だ。