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物語編

第四章 第三五話 物語編

第四章     体   と   空
第三五話 業に塗れた器 と 業を越えた器

 

我が教えに従い、人生が豊かになった者たちは、
業績を称え上げて、私を窮境へ持ち上げて行った。
学内や世間に於ける、私の地位は自ずと高くなった。

 

そして、いよいよ、頂点にある総長の座にまで、
自然な流れに拠って、推し上げられる事になった。
其れに際して、盛大な就任式まで、企画が為された。

 

世間は、喜び浮かれて、私を祝福してくれたが、
私自身は、手放しで、歓ぶことなど出来なかった。
階級の下に、捨てられた者を、私は見ていたからだ。

 

私が、頂点に据えられる、善なる天界の繁栄は、
底辺に埋められている、悪しき地獄が支えている。
我らが認めるべきは、私ではなく、彼らではないか。

 

無論、地獄の住人は、我らに危害を加えて来る。
しかし、其れを理由に、彼らを根絶やしにしても、
その次は、我らの中から、生贄を選ばねばならない。

 

彼らが居てこその、我らの地位にもかかわらず、
私が善の表象として、祀り上げられても良いのか。
我こそ悪の表徴として、彼らに尽すべきで無いのか。

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