物語編
第四章 第三六話 物語編
第四章 三毒 と 三薬
第三六話 法を業とする と 業を法とする
就任式の当日、私は、数人の優秀な弟子と共に、
会場の控え室で、自分が呼ばれるのを待っていた。
すると、十歳位の少女が、部屋の中まで入って来た。
その子は、礼儀正しく、他の者に挨拶してから、
真っ直ぐに、憚る事なく、私の傍まで遣って来た。
そして、可愛らしい、笑みを浮かべて、私に尋ねた。
〈うんと、お兄さんは、有名な先生なんでしょ。
この学校で、お兄さんは、何を皆に教えているの?〉
空や愛や法を、教えている、そう私は少女に応えた。
〈じゃあ、お兄さんは、ちゃんと解っているの?〉
私が、解っていると答えると、彼女は喜び出した。
喜ぶ程、理解できるのかと、自分まで嬉しくなった。
〈じゃあ、お兄さんは、ちゃんと悟っているの?〉
私が、悟っていると答えると、彼女は泣き出した。
泣く程、感動できるのかと、私まで泣いてしまった。
〈どうして、お兄さんは、そんな泣いているの?〉
その齢で、感動できる、君に感動したと答えると、
彼女は、ますます、大きな声を上げて、泣き始めた。