clear
clear
物語編

第四章 第三八話 物語編

第四章    寂止   と   正観
第三八話 闇が消えた心 と 光が現れた心

 

何かが、乗り移ったかの如く、畳み掛ける様に、
捲し立てると、女の子は、また、泣いてしまった。
彼女の泣き声に、不快さは感じず、魂に染み渡った。

 

あたかも、地位に就かされ、仮面を被ったため、
思う存分に、感情を出せない、今の私に代わって、
この子は、声を張り上げて、泣いているようだった。

 

私も、門弟の前だったが、涙が止まらなかった。
眼前で、泣きじゃくる、女の子を涙越しに見つめ、
魂に染み着いた業が、洗い流されては消えて行った。

 

この騒ぎを聞き付けて、人が駆け付けて来たが、
私と少女の間に存在する、深い絆を察した弟子が、
他の誰も立ち入らせず、二人の空間を設けてくれた。

 

嬢ちゃん、君は、覚えてないかもしれないが、
忘れもしない、私は、君のことを良く覚えている。
君はね、智慧と慈悲を具えた、強くて優しい女性だ。

 

私は、懐かしい意識に向かって、彼女に語り掛ける。

 

貴女が、遣わされた理由は、解かっています。
それが、分からなくなる程には、堕ちていません。
有り難い、二度ならず、三度まで、助けられるとは。

 

それから、静かに微笑んで、“君の名は”と尋ねた。

コメントを残す

入力エリアすべてが必須項目です。メールアドレスが公開されることはありません。