物語編
第四章 第四二話 物語編
第四章 生起 と 究竟
第四二話 念を重ねる禅 と 念を離れる禅
私は、一切を脱ぎ捨てて、裏口から抜け出した。
たとえ、仏陀を迎えに行く、聖なる行為とはいえ、
集まった、信者の思いを、悉く裏切る選択であった。
大学を離れる際、背後から、狂騒が聞えて来た。
おそらく、純粋な思いにせよ、不純な想いにせよ、
思惑が、引っ繰り返されて、阿鼻叫喚と化した筈だ。
私を信じていた者ほど、私を恨むようになった。
私が向かった先々で、私を知っている人がいると、
彼は、私を見つけるや、唾を吐き掛ける様になった。
自ずと、悪しき者と、私は交わるようになった。
初めこそ、悪い者達は、私の転向を疑っていたが、
本当に、堕ちて来たのを知って、受け容れてくれた。
悪人は、歪んでいて、独り善がりではあったが、
彼らなりの善を求めて、ある意味、解り易かった。
悪人には、愛は通わなかったが、利なら良く通じた。
私は、悪の繋がりを辿って、村々を転々とした。
話しても解らない相手に、自らの命を委ねながら、
来る日も来る日も、仏を探す日々が、延々と続いた。