物語編
第四章 第四八話 物語編
第四章 不殺 と 殺生
第四八話 命を殺めない と 命を危めない
〈第五の試練は、不殺生の戒を、見破ることだ。
戒を説く者が、戒を解く事が、貴様に出来るのか。
殺生の罠を、貴様が解けるなら、仏陀に会せてやる。〉
〈そもそも、殺生の過患を、解かっているのか。〉
「使命が、死命に変わり、地元素の病に罹ること。」
〈然り、それを心得ながら、不殺生の戒を破れるか。〉
〈思いの外、難しくはないと、考えていないか。
殺めたら、危られるくらい、大した試練でないと。
残念だ、貴様が殺すべき物は、貴様が危め難き命だ。〉
男は、通り縋りの子を指差し、殺ろせと言った。
子供をか、聞き間違いだろうと、男に訊き返すと、
間違いない、早く殺して来い、同じ言を繰り返した。
如何して、あの子を屠らないと、いけないのか。
年端も行かぬ子を殺す理由が、何処に有るのかと、
私が問い詰めると、高笑いして、男は、言い切った。
〈言い訳なんて、求める限り、貴様は悟れない。
しかも、そもそも、言い訳なんか、有る訳がない。
全て嘘だからな、貴様は信じたのか、目出度い奴だ。〉
そう言いながら、心底、私を馬鹿にしたように、
男は、腹を抱えて、笑い転げ、苦しみ悶えていた。
斯くも、気に障る笑い方は、この男が初めてだった。