物語編
第四章 第五一話 物語編
第四章 不飲 と 飲酒
第五一話 酒を飲まない と 酒を呑ませる
十年振りに学園に戻ると、皆が駆け寄って来た。
遠目に見る私の窶れ具合に、誰もが涙を流したが、
晴れ晴れとした私を見て、涙の意味が変って行った。
倒れそうになる私に、肩を貸してくれる女性が、
痛む処は無いかしらと、優しく尋ねて来てくれた。
久し振りの優しさに涙し、娘の真理の安否を尋ねた。
すると、その女性は、私を、まじまじと見つめ、
[あらら、この絶世の美女が、見えないのかしら。
美し過ぎる真理に、人は震え慄くって、本当なのね。]
残った片目で、良く見ると、確かに面影がある。
二十年前の彼女にも似て、十年前の彼女にも似て。
本当に、彼女なんだと、絶妙な種明しに大笑いした。
私は、感情が溢れ出して、静かに涙を愉しんだ。
これからは、酸いも甘いも、有り難く受け容れて、
人と共に、天の命に囚われず、人の命を果せば良い。
[ねえ、御兄さんは、どうして、泣いているの?]
「いやね、御姉さんが、このまま、年を取ったら、
どんな、御婆さんに、なるのかなと、思ったからさ。」
もう、ひどいなと、彼女は、大きな声で笑い出した。