第四章 第四八話 対話編
CASE 不殺 の裏に 殺生
マナミ 殺生に関する、天の法は、どういうものなの?
マサシ 天の法では、命を殺したら、命を戮されるよ。
マナミ この天の法を、認めない人は、どう考えるの?
マサシ 命を殺せば、自らが得をすると、捕えるのさ。
マナミ この天の法を、見とめる人は、どう考えるの?
マサシ 命を戮せば、自らが損をすると、捉えるのさ。
マナミ 天の法を、認められたら、殺さなくなるの?
マサシ 我がために、命を殺す人は、消えてくるけど、
人々のために、命を戮す人が、現れてくるよ。
マナミ 我がために、殺さない人は、どう考えるの?
マサシ 先に得しても、後で損すると、捕えているよ。
マナミ 他のために、戮せる人って、どう考えるの?
マサシ 先に損しても、後で徳すると、捉えているよ。
マナミ 殺したら、戮されて、自ら損を受けるけど、
他のために、殺したら、其の損が徳になるの?
マサシ うん、損を厭わない、広大な心が、徳なのさ。
マナミ う~ん、殺せば得する、そう考えてないの?
マサシ 君は、是までの道を、辿って来てないのかい?
大丈夫、そういう人に、この道は解かないよ。
マナミ ……………………
CASE 不殺 の先に 殺生
サトシ 殺さない階、不殺って、どういうものかな?
マサシ 不殺とは、我がためには、殺さない戒なのさ。
サトシ 我がために、戮していると、どうなるのかな?
マサシ 穢れが集まり、内が汚くなり、外が浄くなる。
サトシ 我がために、殺さないなら、どうなるのかな?
マサシ 汚れを捨てて、内が清くなり、外が穢くなる。
サトシ 戮させる階、殺生って、どういうものかな?
マサシ 殺生とは、世のためには、戮させる界なのさ。
サトシ 世のために、殺さないなら、どうなるのかな?
マサシ 役が滞るから、我が清いまま、世が穢いまま。
サトシ 世のために、戮していると、どうなるのかな?
マサシ 役が巡るから、我は汚くなり、世が浄くなる。
サトシ せっかく、我が汚れを、外に投げ捨てたのに、
今度は、世の穢れを、内に受け容れていくの?
マサシ そうだよ、自分だけが、幸せなら良いのかい?
サトシ 良いよ、僕が戒を守って、器を磨いたんだ。
マサシ この先は、世の界を護って、器を広げようよ。
サトシ 嫌だよ、器を開けてたら、器が汚れちゃうよ。
マサシ そうかい、そんな人に、その先は解かないよ。
サトシ ……………………
CASE 不殺 という 殺生
サトミ あんた、世のためなら、殺して良いなんて、
到底、認められない、法を解いているそうね。
マサシ これは、天人の教えで、天の法が前提にある。
サトミ 天が司る、前提の法って、どういうものなの?
マサシ 生を殺せば、命を戮される、ということさ。
それを前提に、戦争に行けば、どうなるかな?
サトミ 殺したら、戮されるし、敵と戦えなくなるわ。
マサシ すると、敵に負けるから、国は滅びてしまう。
サトミ それでも、あたしはイヤよ、誰か戦ってよね。
マサシ 肉のために、牛を屠殺したら、どうなるかな?
サトミ 損ねたら、害われるし、誰かに屠って貰うわ。
マサシ 君のために、殺めた人は、危められるけど。
サトミ それでも、あたしはイヤよ、誰か殺してよね。
マサシ 移りやすい、病が発生したら、どうするかな?
サトミ 誰かに頼んで、発症した人々を、隔離するわ。
マサシ 隔した人も、隠された人々も、死んじゃうよ。
サトミ それでも、あたしはイヤよ、誰か離してよね。
マサシ 我が身しか、考えに入らない、君は近づくな。
この法は、治める側の教え、天の訓えなのさ。
サトミ ……………………
CASE 殺生 と 不殺 と 金剛
マサシ 命を殺める、殺生は、どういうものですか?
アキラ 殺生とは、欲に負けて、命を破ることである。
マサシ 我がために、生を殺すと、どうなりますか?
アキラ 命が戮される。生を通して、欲が損に変わる。
マサシ 命を生かす、不殺は、どういうものですか?
アキラ 不殺生は、欲に勝って、命を守ることである。
マサシ 皆のために、生を護ると、どうなりますか?
アキラ 命が守られる。生を透して、欲が得に換わる。
マサシ 命を活かす、金剛は、どういうものですか?
アキラ 金剛とは、欲を越えて、命を司ることである。
マサシ 他のために、生を戮すと、どうなりますか?
アキラ 命が果される。生を徹して、欲が徳に替わる。
マサシ たとえ、一時的に、我が生が断たれようと、
最終的に、生きるならば、命を絶つのですか?
アキラ たとえ、代表的に、我が生が損なわれても、
全体的に、活きるならば、命を害すのである。
マサシ その器こそが、金剛の眷属、水の菩薩ですか?
アキラ 逆説的だが、存えているから、果せなくなる。
金剛の一族は、生命と天命、その両界を司る。
マサシ ……………………!!
CASE 殺生なき不殺 と 不殺なき殺生
サトミ 不殺と殺生、どちらを、重んじるべきかな?
メグミ どちらも、同じぐらいに、重んじるべきなの。
サトミ 殺さない解、不殺って、どういうものかな?
メグミ 不殺とは、自我のために、命を守らせる戒よ。
サトミ 戮させる解、殺生って、どういうものかな?
メグミ 殺生とは、自然のために、命を巡らせる界よ。
サトミ 不殺を望み、殺生に臨まないと、どうなるの?
メグミ 殺生なき不殺なんて、命が溜まるだけなのよ。
サトミ じゃ、命を守るばかり、命が巡らないのかな?
メグミ そうよ、命が偏らされて、命が腐っていくよ。
サトミ 殺生を望み、不殺に臨まないと、どうなるの?
メグミ 不殺なき殺生なんて、命が漏れるだけなのよ。
サトミ じゃ、命が巡るばかり、命を守らないのかな?
メグミ そうよ、命が均らされて、命が流れていくよ。
サトミ 不殺だけでは、生に縛られ、命が活きないし、
殺生ばかりでは、生が破られ、命が生きない?
メグミ うん、不殺と殺生、その両方が、必要なのよ。
サトミ じゃあ、殺生を究め、不殺を極めていくの?
メグミ そうなの、不殺を超え、殺生を越えていくの。
サトミ ……………………!!
CASE 夜 摩 天
マサシ 閻魔大王、第三天界は、どういうものですか?
アキラ 第三天界は、善悪を裁く、天人の住居である。
マサシ 須弥山の上に、どんな神が、住まうのですか?
アキラ 閻魔天が住まい、地獄の獄卒を、率いている。
マサシ 閻魔天は、どのように、善悪を裁くのですか?
アキラ 生前が映る、鏡を見せて、死者、自らが裁く。
マサシ 閻魔天が、悪人を憎み、地獄に落とすのでは?
アキラ 彼は、決して裁かず、罪人自身が地獄を選ぶ。
マサシ 獄卒は、獄囚を憎んで、責め苦を与えますが。
アキラ いや、それについて、尋ねるべきではない。
マサシ 時が来ました、真実とは何か、示して下さい。
アキラ 獄卒とは、夜摩天ではなく、地獄の民である。
彼らは、怨嗟の連鎖で、地獄を抜けられない。
マサシ では、獄卒と獄囚は、立場を入れ替えながら、
報復し続ける、地獄の住人、そのものですか?
アキラ 然り、入れ替わり、立ち替わる、業の連鎖に、
もはや、どちらも哀れで、肩入れが出来ない。
マサシ この、熾烈な輪廻の中、閻魔は何を見ますか?
アキラ 同情の無意味さ、生死の等しさ、慈悲の尊さ。
マサシ ……………………
CASE 第 三 天 界
サトシ あのね、第三天界って、どういうものかな?
マサシ それはね、命を司るもの、欲界の天界なのさ。
サトシ 天を通さず、命が偏るほど、どうなるのかな?
マサシ 欲が強い者に、命が殺められ、命が腐るのさ。
サトシ 天を徹して、命が広がると、どうなるのかな?
マサシ 欲が深い者の、命が危められ、命が蘇るのさ。
サトシ 欲の世界は、放って置くと、その良く故に、
命が腐るから、命を管理する、天界が有るの?
マサシ その通りさ、偏り過ぎると、命は名になるよ。
サトシ 具体的に、悪人に対して、何を行っているの?
マサシ 邪悪な者が、善人を危めて、苦しめないよう、
善を苛む者に、天罰を加えて、打ち砕くのさ。
サトシ 具体的に、善人に対して、何を為しているの?
マサシ 善良な者が、悪人を殺めて、並ばないように、
悪を憎む者に、天誅を任せて、試し見るのさ。
サトシ 天に代って、悪を危めたら、悪人と同じなの?
マサシ そうだよ、獄囚も獄卒も、名が違うだけだよ。
サトシ う~ん、悪が殺められても、誰も構わないよ。
マサシ こうして、命が抜けてしまう、それが名だよ。
サトシ ……………………