第四章 第五六話 対話編
CASE 柔和 の裏に 憤怒
マナミ 穏やかな仏、柔和尊は、どういうものなの?
マサシ 柔和尊は、軽い業を誘う、仏の慈しみの相さ。
マナミ 成劫期には、罪が浅いから、優しく誘うの?
マサシ 善が多い者は、善を愛させて、善を増やし、
悪が少ない者は、悪を憎ませて、悪を減らす。
マナミ 怖ろしい仏、憤怒尊は、どういうものなの?
マサシ 憤怒尊は、重い業を導く、仏の哀れみの相さ。
マナミ 壊劫期には、罪が深いから、厳しく導くの?
マサシ 善に拘る者は、善を譲らせて、徳に変えて、
悪に縋がる者は、悪を降らせて、善に換える。
マナミ 罪が浅いなら、優しく説いて、勧めるけど、
罪が深くなると、厳しく解いて、逆にするの?
マサシ 柔和の済度は、清らかな我を、育てさせて、
憤怒の済度では、汚された我を、捨てさせる。
マナミ つまり、研けるうちは、磨こうとするけど、
終末には、無理やりでも、諦らめさせるのね。
マサシ そうさ、世界を壊して、初めから創るのさ。
マナミ まるごと、世界を滅ぼす、そんなの酷くない?
マサシ そう言わず、優しく説く間に、悟って欲しい。
マナミ ……………………
CASE 柔和 の先に 憤怒
サトミ 死んだ後に、人の魂って、どうなっていくの?
メグミ 転生するまで、四十九日間、中有に入るのよ。
サトミ この期間に、生れ変わり先を、決めていくの?
メグミ そうだよ、最も囚われる世界に、入っていく。
サトミ じゃあ、一週間目には、どんな誘いがあるの?
メグミ 先ず、柔和な神々が、優しく真理を説くのよ。
サトミ 誰でも、穏かに逼れば、神の道に従うよね?
メグミ 無理だよ、優しい顔では、侮ってしまうから。
サトミ じゃあ、二週間目には、どんな導きがあるの?
メグミ 次に、憤怒の神々が、厳しく真理を解くのよ。
サトミ 誰でも、激しく迫れば、神の道に順うよね?
メグミ 無理だよ、厳しい顔では、脅えてしまうから。
サトミ たとえ、神に会っても、神に合せないのね。
メグミ うん、神々に逢える人は、未だ良い方なのよ。
意味を、求めていない人は、意識が飛ぶから。
サトミ じゃ、三週目以降からは、何に遭うのかな?
メグミ それを、神を訪ねたい人が、尋ねる必要ある?
サトミ うん、会えない時のため、聞いて置きたいの。
メグミ うふっ、そういう心の隙に、魔が入り込むの。
サトミ ……………………
CASE 柔和 という 憤怒
サトシ 死後の、二週間までは、どんな誘いがあるの?
マサシ うん、色界の型を介して、解脱に導かれるよ。
サトシ 死後の、三週目からは、どんな誘いがあるの?
マサシ うん、欲界の形を解して、転生に導かれるよ。
サトシ 具体的に、どんな形が、目の前に現われるの?
マサシ 例えば、黒い服を纏って、物の陰に隠れたら?
サトシ その姿は、諜報を司る、密偵とか忍者かな。
マサシ いや、その形から入ると、ゴキブリになるよ。
例えば、菓子の家に潜って、食べ捲くったら?
サトシ その姿は、食欲を競う、大食いの選手かな。
マサシ いや、その形から入ると、ウジムシになるよ。
例えば、美女を脇に侍らせ、中央に座ったら?
サトシ その姿は、権勢を誇る、王様とか殿様かな。
マサシ いや、その形から入ると、ライオンになるよ。
サトシ 実際は、思っていたものと、違ってくるんだ。
マサシ うん、良くを望んだのに、飽くに臨んでいく。
サトシ そっか、この仕組みは、生前も死後も同じか。
マサシ いつでも、行きは良いが、帰りは悪いのさ。
いくら、優しく諭そうとも、誰も認めないよ。
サトシ ……………………
CASE 憤怒なき柔和 と 柔和なき憤怒
サトミ 柔和と憤怒、どちらを、重んじるべきかな?
メグミ どちらも、同じぐらいに、重んじるべきなの。
サトミ 慈しみの仏、柔和尊は、どういうものかな?
メグミ 柔和尊は、昇り行く者を、救い上げる仏だよ。
サトミ 哀れみの仏、憤怒尊は、どういうものかな?
メグミ 憤怒尊は、沈み逝く者を、掬い上げる仏だよ。
サトミ 柔和を望み、憤怒に臨まないと、どうなるの?
メグミ 憤怒なき柔和なんて、唯の諂笑に過ぎないよ。
サトミ じゃ、悪に向かっても、諂い笑うだけなの?
メグミ いくら、笑い掛けようと、悪は嘲うだけなの。
サトミ 憤怒を望み、柔和に臨まないと、どうなるの?
メグミ 柔和なき憤怒なんて、只の逆上に過ぎないよ。
サトミ じゃ、善に向かっても、熱り立つだけなの?
メグミ いくら、叱り付けようと、善は竦むだけなの。
サトミ 柔和だけは、善は救えても、悪を掬えないし、
憤怒ばかりは、悪は掬えても、善は救えない。
メグミ うん、柔和と憤怒、その両方が、必要なのよ。
サトミ じゃあ、憤怒に依り、柔和に拠っていくの?
メグミ そうなの、柔和を超え、憤怒を越えていくの。
サトミ ……………………!!