第四章 第五八話 対話編
CASE 転向 の裏に 回向
マナミ 善に変わる、転向って、どういうものなの?
マサシ 転向とは、悪から転じて、善に向かうことさ。
マナミ どうすれば、悪い性の者が、善に変わるの?
マサシ 悪の中に、善が有ると知れば、悔い改めるよ。
マナミ 自らの中に、憎らしい善が、潜むと認めるの?
マサシ そのとき、善に向けた怨みが、我に跳ね返る。
マナミ 善を攻めて、顧みなかった、我が善が蘇るの?
マサシ うん、悪業が落ちたとき、転向せざる得ない。
マナミ 徳に換わる、回向って、どういうものなの?
マサシ 回向とは、善から回って、徳に向かうことさ。
マナミ どうすれば、善い性の者が、徳に換わるの?
マサシ 善の中に、悪が有ると知れば、悔い改めるよ。
マナミ 自らの中に、憎らしい悪が、潜むと認めるの?
マサシ そのとき、悪に向けた恨みが、我に跳ね返る。
マナミ 悪を責めて、省みなかった、我が悪が甦るの?
マサシ うん、善業が窮まるとき、回向せざる得ない。
マナミ そっか、善が生れると、悪が埋れているから、
必ず、遅かれ早かれ、立場が逆転するわけね。
マサシ そうさ、早かれ遅かれ、謙虚に成るしかない。
マナミ ……………………!!
CASE 転向 の先に 回向
サトミ 善に向かう、転向って、どういうものかな?
メグミ 転向とは、悔い改め、悪が善に変わることよ。
サトミ どうすれば、悪が善に、生まれ変わるのかな?
メグミ 最悪に臨んで、我が悪が、崩れ去れば良いよ。
サトミ 悔い改めて、最善を望むと、どうなるのかな?
メグミ 我が欲が、善に向かって、遣り直しになるよ。
サトミ 徳に向かう、回向って、どういうものかな?
メグミ 回向とは、悔い改め、善が徳に変わることよ。
サトミ どうすれば、善が徳に、生まれ変わるのかな?
メグミ 最善を望まず、我が善を、他に譲れば良いよ。
サトミ 悔い改めず、最善に臨むと、どうなるのかな?
メグミ 我が欲が、悪に向かって、遣り直しになるよ。
サトミ つまり、最善を諦めないと、欲は悪に変わり、
逆に、最悪を明らめると、欲は善に変わるの?
メグミ そうよ、それを繰り返して、飽いて来たら、
ようやく、最善を諦めて、欲は徳に変わるの。
サトミ そっか、善でも悪でも、演目に過ぎないから、
充分に演じ切ったら、他に譲れば良いわけね。
メグミ この関係も、あなたが望むなら、続くからね。
サトミ ……………………!!
CASE 回向なき転向 と 転向なき回向
サトミ 転向と回向、どちらを、重んじるべきかな?
メグミ どちらも、同じぐらいに、重んじるべきなの。
サトミ 良く転じる、転向って、どういうものかな?
メグミ 転向とは、悪を巡らせて、善に向かうことよ。
サトミ 良く回らす、回向って、どういうものかな?
メグミ 回向とは、善を回らせて、徳に向かうことよ。
サトミ 転向を望み、回向に臨まないと、どうなるの?
メグミ 回向なき転向なんて、唯の偏向に過ぎないよ。
サトミ じゃ、善に偏るだけで、徳に向わないのかな?
メグミ そうよ、徳に向わないと、悪に堕ちるだけよ。
サトミ 回向を望み、転向に臨まないと、どうなるの?
メグミ 転向なき回向なんて、只の下向に過ぎないよ。
サトミ じゃ、悪に偏るだけで、善に向わないのかな?
メグミ そうよ、善に向わないと、下に落ちるだけよ。
サトミ 転向だけでは、善が慢じて、悪に落ちるし、
回向ばかりでは、善が減じて、悪が満ちるの?
メグミ うん、転向と回向、その両方が、必要なのよ。
サトミ じゃあ、回向に依り、転向に拠っていくの?
メグミ そうなの、転向を究め、回向を極めていくの。
サトミ ……………………!!
CASE 愛 染 明 王
メグミ 愛染明王の済度は、その名の通り、神業なの。
サトミ 愛染明王に抗う、悪人は、どのように救うの?
メグミ 自ら愛欲に耽って、悪の限りを尽くすのよ。
鏡として振る舞って、悪人に転向を逼るのよ。
サトミ 愛染明王に従う、善人は、どのように救うの?
メグミ 自ら愛欲に溺れて、悪の限りを尽くすのよ。
師として振る舞って、善人に回向を迫るのよ。
サトミ もう、全く解からないよ、どういうことなの?
メグミ 悪人が、明王の悪行を、攻めたらどうなる?
サトミ 鏡だから、悪人の所行を、責めることになる。
メグミ 自身を、責めたくなければ、どうすれば良い?
サトミ 嫌々でも、明王の所業を、認めるしかないよ。
メグミ 善人が、悪人の悪行を、責めたらどうなる?
サトミ 師である、明王の所行を、攻めることになる。
メグミ 明王を、責めたくなければ、どうすれば良い?
サトミ 嫌々でも、悪人の所業を、認めるしかないよ。
メグミ 明王により、善は徳になり、悪は善になった。
サトミ うん、すごい、どうして、こうなるのかな?
メグミ 愛に染まるだけ、名の通り、愛染明王なのよ。
サトミ ……………………!!