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物語編

第五章 第十九話 物語編

第五章    聖霊   と   悪霊
第十九話 神に導く実感 と 魔に導く実感

 

我が子の著しい成長に、喜びを噛み締めながら、
私は、悠然と立ち聳える、巨大なる塔に向かった。
私が捨てた会堂は、見違えるほど立派になっていた。

 

教会の名声は、雛型を越えて、世界まで広まり、
多くの子女や寄付が、世界から集まって来ていた。
神の教えを世に広める、この点に申し分は無かった。

 

これを成し遂げたのは、現教皇のサウロらしい。
前教皇の私が消えて、混乱を極めた信者を導いて、
秩序を取り戻したのは、この敬虔なる神の僕だった。

 

新しい信者に紛れて、教会の中に入って行くと、
古い信者が私を見つけ、不穏な空気が漂い始める。
夥しい憎悪に晒されつつ、私は審判の地に向かった。

 

人の欲を重ねた塔を、打ち壊さないとならない。
天まで積み上げられた、人類の積み荷は甚だ重く、
型として負わされた、私の肩に圧し掛って来ていた。

 

人々が、このように、善くの高みに至れたのは、
神という、共通の善を、内に囲い込んだ故であり、
悪魔という、絶対の悪を、外に追い出した故である。

 

民衆に、善を譲らせて、悪を許させるためには、
彼らから、絶対善という、共通の言語を奪い取り、
今一度、暗黙の了解を、互いに疑わせる要があった。

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