第五章 第十五話 対話編
CASE 飽く の裏に 解く
マナミ 帰っていく、飽くって、どういうものなの?
マサシ 飽くとは、後ろに対かい、進んで行くことさ。
マナミ 還っていく、解くって、どういうものなの?
マサシ 解くとは、先へと向かい、進んで行くことさ。
マナミ う~ん、良く解らない、どういうことなの?
マサシ それなら、器と水で、喩えることにしようか。
つまり、器が徳であり、水が欲であるとする。
マナミ 器の中に、水が満ちると、どうなるのかな?
マサシ もはや、水が注げなくなる、これが飽くだよ。
マナミ 器の中の、水が渇いたら、どうなるのかな?
マサシ やがて、水が注げるように、これが空くだよ。
マナミ 器の中に、再び注いだら、どうなるのかな?
マサシ 改めて、水が注げなくなる、これが飽くだよ。
マナミ 器の中に、何も注がない、どうなるのかな?
マサシ すると、空っぽの器になる、これが解くだよ。
マナミ 同じ水を、今後は決して、注がなくなるの?
マサシ そうさ、在るがままに、放って置くだけだよ。
マナミ そうして、決められると、注ぎたくなるの。
マサシ そんな君は、まだまだ、これに飽いてないよ。
マナミ ……………………
CASE 飽く の先に 解く
サトミ 飽きること、飽くって、どういうものかな?
メグミ 飽くとは、積み続けると、飽いて来ることよ。
サトミ 解けること、解くって、どういうものかな?
メグミ 解くとは、飽き続けると、解けて来ることよ。
サトミ う~ん、良く解らない、どういうことかな?
メグミ それなら、土と塔で、喩えることにするね。
つまり、土が徳であり、塔が欲であるとする。
サトミ 地の上の、土が尽きると、どうなるのかな?
メグミ もはや、塔が高くならない、これが飽くだよ。
サトミ 塔の上の、土が崩れると、どうなるのかな?
メグミ やがて、塔が壊れてしまう、これが空くだよ。
サトミ 地の上に、再び建てたら、どうなるのかな?
メグミ 改めて、塔が高くならない、これが飽くだよ。
サトミ 地の上に、何も建てない、どうなるのかな?
メグミ すると、平らな地が広がる、これが解くだよ。
サトミ 同じ塔を、今後は決して、建てなくなるの?
メグミ そうよ、在るがままに、任せて置くだけだよ。
サトミ そうして、摘まれるほど、積みたくなるなあ。
メグミ うふっ、自ずと飽きないと、解けないからね。
サトミ ……………………
CASE 良く と 飽く と 解く
サトシ 宜しいこと、良くって、どういうものかな?
アツシ 良くとは、分別を持って、得になることだな。
サトシ 厭きること、飽くって、どういうものかな?
アツシ 飽くとは、分別を以って、損になることだな。
サトシ 解けること、解くって、どういうものかな?
アツシ 解くとは、分別を越えて、徳になることだな。
サトシ 自我の器に、欲を垂らすと、どうなるのかな?
アツシ それ以上、注ぎたくなるはず、これが良くだ。
サトシ 自我の器に、欲が満ちると、どうなるのかな?
アツシ これ以上、注ぎたくなくなる、これが飽くだ。
サトシ 飽いてから、放って置くと、どうなるのかな?
アツシ もう一度、注げるようになる、これが空くだ。
サトシ 空いてから、放って置くと、どうなるのかな?
アツシ もう一切、注ぎたくなくなる、これが解くだ。
サトシ そうすると、解くを介して、良くと飽くが、
断ち切られて、繰り返さなく、成るってこと?
アツシ どうしても、解きたければ、そうなるだろう。
サトシ 良くと飽くを、繰り返す事に、僕は飽きたよ。
アツシ 飽きるまで、繰り返したら、自ずから解ける。
サトシ ……………………!!
CASE 解くなき飽く と 飽くなき解く
サトミ 飽くと解く、どちらを、重んじるべきかな?
メグミ どちらも、同じぐらいに、重んじるべきなの。
サトミ 悪なるもの、飽くって、どういうものかな?
メグミ 飽くとは、分別を介して、悪を味わうことよ。
サトミ 徳なるもの、解くって、どういうものかな?
メグミ 解くとは、分別を解して、徳を味わうことよ。
サトミ 飽くを望み、解くに臨まないと、どうなるの?
メグミ 解くなき飽くなんて、唯の不徳に過ぎないよ。
サトミ じゃ、悪を味わっても、徳を味わわないの?
メグミ いずれ、徳を味わうから、徳が延びるだけよ。
サトミ 解くを望み、飽くに臨まないと、どうなるの?
メグミ 飽くなき解くなんて、只の不悪に過ぎないよ。
サトミ じゃ、徳を味わっても、悪を味わわないの?
メグミ いずれ、悪を味わうから、悪が伸びるだけよ。
サトミ 飽くだけでは、悪を負って、徳を追わないし、
解くばかりでは、徳を追って、悪を負わない。
メグミ うん、飽くと解く、その両方が、必要なのよ。
サトミ じゃあ、解くを透し、飽くを徹していくの?
メグミ そうなの、飽くを究め、解くを極めていくの。
サトミ ……………………!!