物語編
第五章 第二十話 物語編
第五章 無形 と 有形
第二十話 実体の無い神 と 実感の有る神
サウロは、司教を引き連れ、教皇の座に現れた。
善行に、裏付けされた信仰は、彼に自信を与えて、
神の前に、何ら恥じることなく、威厳を漂せていた。
〈薄汚い身なりで、裏切り者が訪れたと聞いた。
落ちる所まで落ちて、臆面もなく物乞いに来たか。
貴様は罵る価値もない、食だけ受け取り去るが良い。〉
「天の寛容を真似る、見るに堪えない我の陶酔。
善も、ここまで極めれば、斯くも醜悪になるのか。
教皇よ、悔い改めよ、時は満ち、神の国は近づいた。」
〈地獄に堕ち、悪魔の使いとなりし、預言者よ。
貴様が明らめて、貴様は諦らめた、選民の律法を、
我々は真摯に修めて来た、回心すべきは貴様の方だ。〉
「神の律法を説く者、全てが、天に還れるのか。
否、神の御心を行う者、彼のみ、還る事ができる。
法に囚われ、愛を失いし、蝮の子らよ、悔い改めよ。」
〈焼きが回ったか、愛を語るは、智が曇った証。
落ち魄れたとはいえ、天の御使い、殺しはしない。
只管、地の獄を抱いて、最後の審判、その日を待て。〉
彼が号令を掛けると、隅々から影が集まり始め、
瞬く間に取り囲まれて、私は、手足を拘束された。
そして、二度と出られぬ、鬼門の方角に幽閉された。