物語編
第五章 第二九話 物語編
第五章 律法 と 福音
第二九話 子なる神の法 と 霊なる神の愛
真理に寄り添われ、肩に手を掛けられていたが、
正面を向いた教皇は、拒みもせず、浮かれもせず、
微動だにしないで、只ひたすら、宙を見据えていた。
人々は、判断に困って、教皇の法を仰ぎ見たが、
彼からは、何の徴もなく、各自に決断が迫られた。
彼らは、居残るべきか、立去るべきか、囁き合った。
しかし、この真理の会堂から、戸惑いながらも、
最初の一人が、出て行ってからは、時が加速した。
ひとりが去ると、ひとりが去り、立去る者が続いた。
わざわざ、立ち去る際に、教皇と真理に近づき、
擦れ違い様に、失意の言葉を、吐く者が現れると、
それに続く者は、そうする事が、普通に為っていく。
おそらく、真理の言動を、曲解した者だろうか。
罵りの言葉、呪いの言葉を、吐き掛けるどころか、
真理の横顔に、唾を吐き掛け、嘲笑う者まで現れた。
彼女は、それを拭いもせず、微笑み続けていた。
肩を抱かれる彼も、全く動じず、辺りを睥睨する。
二人は、彫刻の如く、世の中心に、立ち続けていた。
二人以外に、誰も居なくなった、真理の会堂に、
夕陽が差し込んで、宵闇を迎えようとしていたが、
誰も時を数えず、どれほど経ったか、誰も解らない。