物語編
第五章 第三十話 物語編
第五章 親愛 と 信愛
第三十話 他に対する愛 と 神に対する愛
見開いた教皇の目から、大粒の涙が零れ落ちた。
それと同時に、固められた時が、再び流れ始める。
暗がりの中、押し殺しても尚、漏れ出す嗚咽が響く。
真理は、肩に乗せていた手を、静かに降ろして、
光を灯し、目が再び見えるよう、辺りを照らした。
彼の両目は、涙に浄められて、慈しみを宿し蘇った。
[正神は、奇跡を解かず、ただ軌跡を説くのみ。
目に鱗が付いたままで、神の証が見えるだろうか。
否、神の奇跡を望むなら、神の軌跡に臨むしかない。]
[神の言を辿ったが故に、汝が目にしたものは、
真の理を嘲ったが故に、他が見とめなかったもの。
他の者は、二千年を掛け、神の言を辿ることになる。]
[つまり、汝は、人々に先駆け、時代を跨いで、
契約の更改を、色界を透して、垣間見たのである。
一方、他の者は、欲界に落して、認めねばならない。]
彼は、目から鱗が落ちて、男泣きに泣いていた。
悲哀や、絶望ばかりか、歓喜や希望が入り混じり、
彼の心は、混沌を抱えながら、清く澄み渡っていた。