物語編
第五章 第三七話 物語編
第五章 制裁 と 救済
第三七話 他に罪を帰す と 他の罪を負う
智徳は、使徒に招かれて、帝国まで辿り着いた。
その国は、優美ではあるが、決して華美ではなく、
街には、律法が敷き詰められ、秩序が保たれていた。
この帝国を築き上げた、法王の間に通されると、
智徳は、懐かしさの余り、声を無くしてしまった。
遠目に認めたのは法徳、我が弟子に他ならなかった。
駆け寄りたい衝動を堪え、周囲の様子を眺めた。
目の見えない者と足の立たない者が、争っている。
なるほど、法王は、彼らの訴えを裁いているようだ。
『諸君が、何を揉めているのか、私は尋ねない。
たとえ、それでも、諸君は、私を信じられるのか。
我が裁きを信じるか、信じる者は、救われるだろう。』
それを聞き、目の見えぬ者は、この様に答えた。
〈王よ、俺は、あんたを信じて、訴えに来ている。
良いだろう、あんたの言うことを、信じる事にする。〉
それを聞き、足の萎えた者が、この様に応えた。
〈王よ、私は、あなたを信じて、訴えに来ている。
にもかかわらず、訳を聞かぬとは、何かの間違いか。〉
火に油を注ぐつもりか、傷の膿を出すつもりか。
どういうつもりで、あのような裁きを試みるのか。
智徳は、師匠として、弟子の成長を見守ろうとした。