物語編
第五章 第四八話 物語編
第五章 左脳 と 右脳
第四八話 至高を解する と 至高を観じる
神の子を称える、詩の歌い手も、舞の踊り手も、
ゆっくりと、救い主が、神の玉座に近づかれると、
熱狂を抑えて、静寂に変わり、主の第一声を待った。
健気に神を信じる、この選ばれし民に、主は言った。
〔神の御名を語る者、全てが、天に帰れるのか。
否、神の御心を行う者、彼のみ、還る事ができる。
主よ主よと神を騙る、蝮の子らよ、天の報いを知れ。〕
聞き違いであろうか、判断に苦しむ民を尻目に、
主は、供えられた物を、次々に打ち壊して行った。
静まり切った神殿の中に、物が壊れる音が響き渡る。
漸く理解に達した者の、叫び声が呼び水となり、
悲鳴が悲鳴を呼んで、瞬く間に阿鼻叫喚と化した。
禽獣と化した者に、泣き喚く者に、歯を軋ませる者。
一度でも綻びを見せた、信の念は繕い切れない。
裏切られた民は、早々に、この男を偽者と断じた。
今にも、吊るし上げそうな、きな臭さが立ち籠める。
その中で、最後まで、理解に苦しむ者が、二人。
主を良く知る者、智徳と、彼を良く知る者、法徳。
全てが壊れる中で、壊れ切れぬ物を、彼らは求めた。