物語編
第五章 第五八話 物語編
第五章 地獄 と 煉獄
第五八話 我の悪を司る と 神の悪を司る
そのとき、誰もが思ったことを、誰かが言葉にした。
〈使徒よ、大戦渦を避けること、その報いは何か。〉
「数多の民の命を救えば、幾度も己の命を救われる。」
〈使徒よ、救世主を殺めること、その酬いは何か。〉
「正法の世の型を屠れば、末法の世の民に屠られる。」
〈大戦渦を避けるために、救世主を殺めること。
使徒よ、これは、善行であろうか、悪行だろうか。〉
「どちらでもない、善悪が定まらぬ、神の命である。」
〈神の裏の顔、悪の役を果して、我らが赴く処。
使徒よ、そこは、天国であろうか、地獄だろうか。〉
「どちらでもない、苦に苦しまない、神の獄である。」
「我が為にせよ、神の為でも、悪には悪で返る。
しかし、悪を、我の為に侵せば、我が為に苦しみ、
逆に、悪を、神の為に犯せば、我が為に苦しまない。」
「我を忘れて、神に服する者に、善も悪もない。
彼に備わるのは、神の唯一性、絶対の歓喜である。
たとえ身は獄に在ろうと、いつも心は神と共にある。」