第五章 第五五話 対話編
CASE 喜捨 の裏に 断食
マナミ ねぇ、サダカ、喜捨って、どういうものなの?
マサシ 喜捨は、我が楽を与え、他を楽にすることさ。
マナミ どうして、財産を施して、余裕を無くすの?
マサシ この世界が、楽しい所だと、思えない様にさ。
マナミ 楽しくないと、神の元に、帰りたくなるの?
マサシ その通りさ、楽が少ないと、神に近くなるよ。
マナミ 余ったら、財を施していけば、良いんでしょ。
マサシ ううん、そう思っていると、神から離れるよ。
マナミ じゃ、サウム、断食って、どういうものなの?
マサシ 断食は、我が楽を断ち、我を苦にすることさ。
マナミ どうして、空腹に耐えて、苦悩を味わうの?
マサシ この世界が、愉しい処だと、想えない様にさ。
マナミ 苦しくなると、神の許に、還りたくなるの?
マサシ その通りさ、苦が多いほど、神に近くなるよ。
マナミ 終ったら、食を楽しんだって、良いんでしょ。
マサシ ううん、そう想っていると、神から離れるよ。
マナミ もう、そう考えていると、苦しいだけなの。
全てを、詰まらなく感じて、死にたくなるの。
マサシ そこから、始めない限り、神を観じられない。
マナミ ……………………
CASE 喜捨 の先に 断食
サトミ あたしは、寄付のような、喜捨が好きなのよ。
税金で、盗られるより、寄付の方が得だもん。
メグミ そんなの、喜捨ではなく、収得に過ぎないよ。
サトミ 多く施せば、社会的に、賞賛を受けられるし。
メグミ そんなの、喜捨ではなく、買収に過ぎないよ。
サトミ 良いでしょ、現実的に、相手も喜ぶわけだし。
メグミ 楽な者が、苦しむ相手を、助けたとしても、
確かに、善は積めるけれど、徳は積めないよ。
サトミ 善を積むなら、善い世界には、往けるけど、
徳を積まないと、神の世界には、還れないの?
メグミ どんなに、苦しかろうと、在り難く認める。
そのときに、神の許に還る、徳が積めるのよ。
サトミ 上から哀れみ、施しても、善が積めるだけ。
横から支え、施すときだけ、徳が積めるわけ?
メグミ そうよ、苦しむ相手と、同じ所に立たないと、
徳が、積めない処か、慢に嵌ってしまうのよ。
サトミ う~ん、そこまでして、寄付したくないな。
あたしは、楽しい所から、苦しむ人を助ける。
メグミ うふっ、同じ処まで降りて、助けに来たのに。
サトミ ……………………
CASE ラ マ ダ ン
サトシ 天の教えが、下された月は、何をすべきかな?
マサシ 地を離れ、天に還る、喜捨と断食をするのさ。
サトシ 喜んで捨てる、喜捨って、どういうものなの?
マサシ 喜捨は、地の喜びを捨てて、他に与えるのさ。
サトシ どうして、ラマダンには、喜捨が行われるの?
マサシ 地の喜びに、捕らわれたら、天に還れないよ。
サトシ 財産を施して、名声を得ると、どうなるの?
マサシ 地の喜びに、囚われるから、地に縛られるよ。
サトシ 憂いを食べる、断食って、どういうものなの?
マサシ 断食は、地の憂いを味わい、共に苦しむのさ。
サトシ どうして、ラマダンには、断食が行われるの?
マサシ 地の憂いを、捕えていたら、地に縛られない。
サトシ 断食が明けて、食を楽しむと、どうなるの?
マサシ 地の喜びに、囚われるから、天に還れないよ。
サトシ そっか、少しでも狂うと、逆の結果になるね。
マサシ そもそも、天と地の教えが、真逆だからだね。
サトシ 例えば、褒美を授けたり、段位を与えたり、
天に還る、より安楽な道は、存在しないかな?
マサシ う~ん、それって、地の教え、そのものだよ。
サトシ ……………………
CASE 断食なき喜捨 と 喜捨なき断食
サトミ 喜捨と断食、どちらを、重んじるべきかな?
メグミ どちらも、同じぐらいに、重んじるべきなの。
サトミ 楽を与える、喜捨って、どういうものかな?
メグミ 喜捨とは、我が楽しみを、他が味わうことよ。
サトミ 苦を受ける、断食って、どういうものかな?
メグミ 断食とは、他の苦しみを、自ら味わうことよ。
サトミ 喜捨を望み、断食に臨まないと、どうなるの?
メグミ 断食なき喜捨なんて、唯の満悦に過ぎないよ。
サトミ じゃ、余らせた分だけ、楽を与えるだけなの?
メグミ そうよ、上から憐れんで、慢に浸るだけだよ。
サトミ 断食を望み、喜捨に臨まないと、どうなるの?
メグミ 喜捨なき断食なんて、只の欠食に過ぎないよ。
サトミ じゃ、限られた時だけ、苦を受けるだけなの?
メグミ そうよ、終れば愉しんで、食を貪るだけだよ。
サトミ 喜捨だけでは、我が傷まず、神に帰れない。
断食ばかりでは、長く続かず、神に還れない。
メグミ うん、喜捨と断食、その両方が、必要なのよ。
サトミ じゃあ、断食に依り、喜捨に拠っていくの?
メグミ そうなの、喜捨を究め、断食を極めていくの。
サトミ ……………………!!