第五章 第五七話 対話編
CASE 天国 の裏に 地獄
マナミ ねぇ、ジャンナ、天国は、どういうものなの?
マサシ 天国は、楽を与え合う、善が司る世界なのさ。
マナミ 天に在る、国に参るには、どうすれば良いの?
マサシ 我に善くて、他に善い、親善を積めば良いよ。
マナミ ジャハンナム、地獄って、どういうものなの?
マサシ 地獄は、苦を与え合う、悪が司る世界なのさ。
マナミ 地に有る、獄に入るには、どうすれば良いの?
マサシ 我に善いが、他に悪い、独善を積めば良いよ。
マナミ そもそも、絶対的な、善や悪なんて無いの?
マサシ そうさ、人が変われば、悪と善が入れ替わる。
マナミ それなら、善かれと思い、楽を与えたとして、
相手が、悪いと想えば、地獄に落ちていくの?
マサシ うん、関わるものが、増えれば殖えるほど、
誰にも、善いものなど、在り得なくなるのさ。
マナミ じゃ、天国に行きたくて、大きな事をすると、
そこに、悪が混じって、地獄に落ちて逝くの?
マサシ うん、大きな欲を持つと、悪が混じりやすい。
マナミ じゃあ、小さな善を積めば、悪が交らないの?
マサシ そもそも、天国に行く欲こそ、天獄逝きだよ。
マナミ ……………………
CASE 天国 の先に 地獄
サトミ 善行を司る、天国って、どういうものかな?
メグミ 天国とは、欲の使い方が、巧い者の世の中よ。
サトミ 知恵の実が、美味く稔った、欲の界なのかな?
メグミ 譲り合うほど、良く実るって、思っているの。
サトミ 悪行を司る、地獄って、どういうものかな?
メグミ 地獄とは、欲の使い方が、拙い者の世の中よ。
サトミ 知恵の実が、不味く稔った、欲の界なのかな?
メグミ 奪い合うほど、良く実るって、想っているの。
サトミ じゃあ、どんどん、譲り合えば、良いでしょ。
みんなで、天国に行けるのに、何故しないの?
メグミ どの世界も、定員が、決められているから、
上の世界ほど、少なく、下の世界ほど多いの。
サトミ つまり、天国の座を、奪い合う必要があるの?
メグミ うん、譲り合わないと、天国に到れないし、
一方で、奪い合わないと、天国に着けないの。
サトミ もう、天国に行くには、どうすれば良いの?
メグミ じゃあ、天国も譲ったら、良いんじゃないの?
サトミ あたしは、天国に行きたい、それは譲れない。
メグミ うふっ、なかなか、欲は、上手く使えないね。
サトミ ……………………
CASE 天国 という 地獄
サトシ 神様に近い、天国って、どういうものかな?
マサシ 天国とは、神命に従がう、天使が集まる処さ。
サトシ じゃあ、神様に順えば、天国に上って行くの?
マサシ 他に善い、親善を積めば、神様に近くなるよ。
サトシ 神様に遠い、地獄って、どういうものかな?
マサシ 地獄とは、神命に逆らう、悪魔が集まる所さ。
サトシ じゃあ、神様に叛けば、地獄に落ちて逝くの?
マサシ 他に悪い、独善を積めば、神様が遠くなるよ。
サトシ すると、他に善くするのが、神の命であり、
その逆に、他に悪くするのが、魔の命なのか。
マサシ 今の所、そう考えていても、問題は無いよ。
未だ君は、器が小さくて、世界が狭いからね。
サトシ う~ん、良く解からないよ、どういうこと?
マサシ 実の処は、皆が良くするのが、神の命であり、
この瞬間も、神様の御許に、僕らは居るのさ。
サトシ いやいや、人が住む処に、神様は居ないよ。
もっと、大きな善を積んで、天国に行きたい。
マサシ うん、そう考えていても、問題は無いけど、
天国に、囚われるほど、地獄に捕らわれるよ。
サトシ ……………………
CASE 地獄なき天国 と 天国なき地獄
サトミ 天国と地獄、どちらを、重んじるべきかな?
メグミ どちらも、同じぐらいに、重んじるべきなの。
サトミ 知恵が実る、天国って、どういうものかな?
メグミ 天国とは、外から見ても、善い世界のことよ。
サトミ 知恵が腐る、地獄って、どういうものかな?
メグミ 地獄とは、外から見ると、悪い世界のことよ。
サトミ 天国を望み、地獄に臨まないと、どうなるの?
メグミ 地獄なき天国なんて、唯の鎖国に過ぎないよ。
サトミ じゃ、他から見ないと、独り善がりになるの?
メグミ そうよ、外から省みると、我が慢に気づくの。
サトミ 地獄を望み、天国に臨まないと、どうなるの?
メグミ 天国なき地獄なんて、只の入獄に過ぎないよ。
サトミ じゃ、他から見ないで、独り善がりになるの?
メグミ そうよ、外まで出ないで、自ら獄に入るのよ。
サトミ 天国だけでは、慢に嵌って、独善に陥るし、
地獄ばかりでは、悪に填って、独善に陷るの?
メグミ うん、天国と地獄、その両方が、必要なのよ。
サトミ じゃあ、地獄を究め、天国を極めていくの?
メグミ そうなの、天国を超え、地獄を越えていくの。
サトミ ……………………!!
CASE 天国 の裏に 天獄
マナミ 天を楽しむ、天国って、どういうものなの?
マサシ 天国とは、知恵を具えず、天を楽しむことさ。
マナミ 知が無いと、愉しめるのは、どうしてなの?
マサシ 漏れなく、良くは飽くと、認めてないからさ。
マナミ 天を苦しむ、天獄って、どういうものなの?
マサシ 天獄とは、知恵を備えて、天に苦しむことさ。
マナミ 知が有ると、苛まれるのは、どうしてなの?
マサシ 漏れなく、良くは飽くと、認めているからさ。
マナミ たとえ、良くが叶えられる、天で在っても、
その内に、飽いてしまうって、見えて来るの?
マサシ そうさ、それが見えて来て、愉しめなくなる。
マナミ でも、全てが叶えられる、天に居るんだから、
上手に、知恵を使えば、楽しめると思うけど。
マサシ なるほど、寧ろ逆だって、君は考える訳か。
天国に居て、苛まれる方が、知恵が無いって。
マナミ 善を積み重ね、知を磨き上げ、天国に来たの。
そんな魂が、集まる天国が、苦しい訳がない。
マサシ あくまで、自分が正しいって、考える訳だね。
君のような、天人が集まるのが、天獄なのさ。
マナミ ……………………
CASE 天国 の先に 天獄
サトミ 天に浮れる、天国って、どういうものかな?
メグミ 天国とは、昇って行って、天を楽しむことよ。
サトミ 天に上ると、愉しめるのは、どうしてなの?
メグミ この世が、開いているように、見えるからよ。
サトミ 何でも叶い、適わない事が、無くなるのかな?
メグミ そうだよ、この世の全て、味わい尽せるのよ。
サトミ 天に籠もる、天獄って、どういうものかな?
メグミ 天獄とは、上がり切って、天に苦しむことよ。
サトミ 昇り切ると、苛まれるのは、どうしてなの?
メグミ この世が、閉じていることが、解かるからよ。
サトミ 全て適って、叶えたい事が、無くなるのかな?
メグミ そうだよ、この世の総て、味わい尽したから。
サトミ つまり、何から何まで、思い通りになるって、
初めこそ、楽しいけれど、後で苦しくなるの?
メグミ そうよ、悪い事が少なくて、善い事が多いと、
良くから、飽くになるまでが、早くなるのよ。
サトミ う~ん、何が善で何が悪か、解らなくなった。
ねぇ、あたし、このまま、天を望んで良いの?
メグミ それを、見極めるためにも、天を目指そうよ。
サトミ ……………………
CASE 天国 という 天獄
サトシ 頂を楽しむ、天国って、どういうものかな?
アツシ 天国とは、良くを究める、天の国のことだな。
サトシ 頂に苦しむ、天獄って、どういうものかな?
アツシ 天獄とは、良くが窮まる、天の獄のことだな。
サトシ う~ん、天に上るほど、欲が適いやすいけど、
頂にまで、昇り詰めると、欲が叶わなくなる?
アツシ そうだ、全てが叶って、総てが適えられると、
これ以上、適えるものが、無くなってしまう。
サトシ それは、探し切れていない、だけじゃないの?
この宇宙、隅々まで探したら、何か在るはず。
アツシ 絶対に無い、欲望の頂点に、辿り着いた者だ。
漏れなく、良くは飽くという、結論に達する。
サトシ う~ん、そうは思わないな、探せば必ず在る。
アツシ それなら、今度は、君が、頂点に君臨するか?
誰かが、この役目を、果たさないといけない。
サトシ えっ、この世の頂点に、僕が君臨して良いの?
アツシ 勿論だ、最低な役を、代ってくれて有り難い。
サトシ 僕も、最高の役を、譲ってくれて在り難いよ。
アツシ 君にも、俺の言葉が、解かれば代わりが来る。
サトシ ……………………
CASE 天獄なき天国 と 天国なき天獄
サトミ 天国と天獄、どちらを、重んじるべきかな?
メグミ どちらも、同じぐらいに、重んじるべきなの。
サトミ 良くが適う、天国って、どういうものかな?
メグミ 天国とは、全てが適うと、希望を抱くことよ。
サトミ 飽くが叶う、天獄って、どういうものかな?
メグミ 天獄とは、総てが叶うと、絶望に嘆くことよ。
サトミ 天国を望み、天獄に臨まないと、どうなるの?
メグミ 天獄なき天国なんて、唯の軟禁に過ぎないよ。
サトミ じゃ、欲望が適うけど、絶望に嘆かないの?
メグミ そうよ、活かされもせず、殺されもしないよ。
サトミ 天獄を望み、天国に臨まないと、どうなるの?
メグミ 天国なき天獄なんて、只の監禁に過ぎないよ。
サトミ じゃ、欲望が叶うけど、希望を抱かないの?
メグミ そうよ、殺されもしない、動きもしないのよ。
サトミ 天国だけでは、突き詰めず、先に延ばして、
天獄ばかりでは、行き詰まり、先に進めない。
メグミ うん、天国と天獄、その両方が、必要なのよ。
サトミ じゃあ、天獄を究め、天国を極めていくの?
メグミ そうなの、天国を超え、天獄を越えていくの。
サトミ ……………………!!
CASE 天国 と 天獄 と 地獄
サトシ 天に在る国、天国って、どういうものかな?
マサシ 天国とは、善行を重ねて、楽園に入ることさ。
サトシ 地に在る獄、地獄って、どういうものかな?
マサシ 地獄とは、悪行を重ねて、牢獄に入ることさ。
サトシ 天に在る獄、天獄って、どういうものかな?
マサシ 天獄とは、善行を重ねて、牢獄に入ることさ。
サトシ う~ん、良く解らない、どういうことかな?
マサシ 神のため、命を捧げると、どうなると思う?
サトシ 我に善くて、神に善いなら、天国に行くよね。
マサシ 我のため、他を危めると、どうなると想う?
サトシ 我に善くて、他に悪いなら、地獄に逝くよね。
マサシ 神のため、他を危めると、どうなると思う?
サトシ う~ん、善いことか、悪いことか、解らない。
そもそも、本当に、神のためか、分からない。
マサシ そうさ、善悪なんて、人の目から見たもの。
一方、神の目が見れば、総べてが良いものさ。
サトシ つまり、人の方が勝手に、神を騙っているの?
絶対、そんなことをすれば、地獄に落ちるよ。
マサシ そうさ、天国という地獄、天獄逝きになるよ。
サトシ ……………………
CASE 地獄 と 天国 と 天獄
サトシ 欲に苦しむ、地獄って、どういうものかな?
アツシ 地獄とは、何にも敵わず、苦しくなることだ。
サトシ 欲を楽しむ、天国って、どういうものかな?
アツシ 天国とは、何でも適って、楽しくなることだ。
サトシ 欲に飽きる、天獄って、どういうものかな?
アツシ 天獄とは、何でも叶って、苦しくなることだ。
サトシ すると、全て適っても、総て叶わなくても、
どちらも、苦しくなって、必ず飽いてしまう?
アツシ そうだ、半端に望むときは、楽しく感じても、
悉く適え、極端に臨むときは、苦しく観じる。
サトシ じゃあ、永遠の楽園なんて、言われるけど、
そんなの、現実の世界に、存在しないのかな?
アツシ 少なくとも、欲の世界には、存在していない。
欲を超え、善悪を越えないと、神に還れない。
サトシ 神の世界に、帰りたければ、どうすべきなの?
アツシ それには、神の許に還りたい、欲さえ捧げて、
与えられた、現世の人生に、集中すれば良い。
サトシ それだと、何も変わってない、気がするけど。
アツシ でもな、望み通りにすると、苦しいだけだぞ。
サトシ ……………………