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物語編

第六章 第六話 物語編

第六章    梵   と   我
第六話 外なる大宇宙 と 内なる小宇宙

 

急に、視界が暗転して、足が縺れて倒れ込んだ。
駆け付ける、友の姿を見ながら、意識が途絶える。
智徳は、深く眠る意識に、引き摺り込まれて行った。

 

暗闇を通り抜けると、貧民街の通りに出ていた。
汚らしい通りの片隅に、醜い老婆が倒れていたが、
誰も気に掛けないどころか、嘲って通り過ぎていく。

 

私が、気の毒に思い、老婆を援けようとすると、
人々は、捨てて置けと、絶対に助けるなと訴えた。
彼女には、これが相応だ、自業自得だからと言った。

 

どうやら、若い時の彼女は、美しかったらしく、
その美貌で、寄って来る男を、思いのままに操り、
騙したり、貢がせたりして、私腹を肥やしたそうだ。

 

年を取り、心を惑わす、美しさが衰えて行くと、
彼女の身の回りから、財貨や恋心は離れていって、
老婆の心の中には、罪業と怨念が残るようになった。

 

確かに、彼女の罪であり、因果応報なのだろう。
それでも、不憫に思う私は、苦しみを癒すために、
老婆を背負いながら、家まで連れて帰ることにした。

 

彼女は、長い間、何も食べていなかったようだ。
老婆の身体は、痩せ衰えていて、異常に軽かった。
連れて帰る、労力こそ軽かったが、覚悟は重かった。

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