物語編
第六章 第十五話 物語編
第六章 火難 と 水難
第十五話 火による洗礼 と 水による洗礼
思春期の異性が、総て彼の元に引き寄せられる。
この奇妙な状況が、気に食わない同性の者が居た。
特に同じ世代の中に、彼を妬んで憎む者が多かった。
その嫉妬の憎しみが、自らに向かっている内は、
彼らの胸中を思い遣り、彼は甘んじて受け容れた。
彼らの恋心が、少しでも適えばと、手伝いさえした。
元より、彼に敵わないから、恋が叶わないのに、
彼に援けられた所で、適えられる恋は多くはない。
しかも、助けられては、彼のせいにもしづらくなる。
すると、未熟な者たちの、遣り場のない怒りは、
彼の様な、強き者ではなく、弱き者に向けられた。
自らの苦を、弱きに負わせて、紛らわせようとした。
これが、曲がった事を嫌う、彼の逆鱗に触れた。
これまで、寛容に許して来た、相手を切り捨てて、
たとえ、恨みを買う事になろうと、悉く締め上げた。
そんな、感情を露わにする、新たな彼の一面は、
信奉者の数も増やしたが、敵対者の数も殖やした。
彼の敵は、味方と同様、多くも有り、重くも在った。