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物語編

第六章 第十七話 物語編

第六章    往路   と   復路
第十七話 善く見える路 と 悪く見える路

 

知り合いからは、欲が無い奴と、よく言われた。
超然として居られるのは、欲が無いからだろうと、
若いのに枯れているのかと、揶揄われたものだった。

 

しかし、実際は、無欲とは、真逆と言うべきで、
私は、たった一つではあるが、大いなる欲があり、
それ以外の者に対して、興味を抱けないだけだった。

 

私が、求めて止まないものは、真理だけだった。
我が執着は、そのすべてが、真理に注がれていて、
それ以外には、何も囚われず、微塵も偏らなかった。

 

これに関しては、彼に於いても、同じ事だろう。
彼の周りには、多くの女性が、集って来ていたが、
星の数によって、彼の心は、満たされはしなかった。

 

私も、彼も、真理のことを、静かに愛していた。
愛を口にするだけで、汚してしまいそうに感じて、
燃え上がる愛を、内に押し殺し、真理に接していた。

 

我々の間に、多くの言葉は、必要としなかった。
紡ぎ出そうとすれば、幾らでも言葉は出て来るが、
沈黙でいる時こそ、繋がりを感じられる関係だった。

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