物語編
第六章 第二一話 物語編
第六章 厚情 と 薄情
第二一話 情を善く見る と 情を悪く見る
法徳は、真理の前に立つと、呼吸を落ち着けた。
久しく秘めた熱き思いは、表に出ることを躊躇い、
最初の一言を発するまでに、少しばかり時を要した。
『どちらを選ぶのか、決めてもらう筈だったが、
人に決めてもらうのは、俺の流儀に反してしまう。
相手に択ばれるのを、静かに待つのは、俺ではない。』
『という訳で、既に決めて来た、悪く思うなよ。
俺の幸福と、奴の幸福を比べ、俺は後者を選んだ。
俺の方からは、身を引く積りだ、奴と結ばれてくれ。』
『ただ、ひとつだけ、俺の頼みを聞いて欲しい。
真理、おまえの本心を、洗い浚い明かして貰おう。
道化を、俺が演じたんだ、これぐらい構わないよな。』
『大体、お前も、あいつも、奥手にも程がある。
このまま、おまえたちの、調子に合わせていたら、
老いて逝くばかりか、生まれ変ってしまう、鈍さだ。』
『この際だから、すべて、吐き出してしまえよ。
言いたくても、信じて貰えない、遥か遠い昔から、
抱え込んでいる、あいつに対する、想いがある筈だ。』
『さぁ、俺の心残り、完膚なく打ち壊してくれ。
俺が、予想だにしない、真実を解き明かしてくれ。
もはや、この俺には、お前たちの幸せしか無いんだ。』