物語編
第六章 第二六話 物語編
第六章 衆生 と 菩薩
第二六話 己を利する善 と 他を利する善
こんな幸せが、長く続かない事は、解っていた。
しかし、これは、限度というものを、越えている。
私は、久方振りに、心の底から、神の戯れを怨んだ。
三人で挙げた、運命の結婚式、その帰り道にて、
私と彼女は、狂信者の手により、無惨に殺された。
理由などない、偶々居合わせ、狂乱に巻き込まれた。
彼らは、神の愛を掲げて、選民を気取っていた。
選ばれて、愛されていれば、何をしても許される。
神婚の命は、幼な過ぎる民の、教育に使われたのか。
私の腕の中で、妻が息を引き取ろうとしている。
刺された傷から、夥しい量の血が流れ出していた。
最後の力を振り絞り、彼女は、私の顔を引き寄せた。
救い無き苦しみの中、私に囁いた最期の言葉は、
間違いでなければ、有り難う、幸せです、だった。
確信がないのは、私も、ほぼ死に掛けていたからだ。
我が妻と時同じくして、我が命も消えて逝った。
私たちの元に、駆け込んで来る、彼の姿が見える。
血の海に横たわる二人の体を、揺さ振っては叫んだ。
彼は遺体を抱き、天を仰いで、神に訴えていた。
彼の悲痛の叫びは、天下に響き、大地が震えたが、
神の心まで揺らさず、沈黙が返る、ばかりであった。