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物語編

第六章 第三二話 物語編

第六章    過去   と   未来
第三二話 過ぎ去りし時 と 未だ来ない時

 

この涙は、嬉し涙だから、勘違いしないでね。
あなたが、こんなことを、言える日が来るなんて。
母親として、貴方を導けた、生涯が不幸な訳がない。

 

今日は、救済の型が、創り上がる、祝福の日。
どんなに辛いことも、いつかは幸せになるんだと、
あなたが見とめないで、誰に見とめてもらうつもり?

 

あなたは、何があろうとも、笑っていなさい。
わたしは、どんなときにも、そうしてきたつもり。
愛しい、あなたのことだから、覚えているはずよね。

 

そう言うと、母は立ち上り、後ろを振り向いた。
その視線の先には、静かに見守る、旧い友が居た。
親と子の別れを、邪魔しない心遣いが、実に心憎い。

 

暇乞いの機会を、設けてくれて、ありがとう。
もう大丈夫です、気を付けて、行ってらっしゃい。
貴方達二人を、神に届けられて、親冥利に尽きます。

 

出立すれば、此処には、戻っては来れません。
名残惜しいなら、もう少し、遅れても大丈夫です。
師に叱られますが、その責は、私が喜んで負います。

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