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物語編

第一章 第四話 物語編

第一章   肯定   と   否定
第四話 進んで定まる と 退いて定まる

 

人里離れた山奥に、希代の老師が住んでいると、
昔から聞いていたが、それは良い噂ではなかった。
世捨て人は可愛い方で、人攫いとまで言われていた。

 

何故なら、彼は、超人であるが、狂人でもあり、
人生に悩める、多くの若者が、訪れて来ていたが、
彼らが、苦悩ばかりか、世間まで捨て去ったからだ。

 

我が子を盗られたと、その親たちは泣き叫んだ。
たとえ、情に訴え掛けようが、法を振り翳そうが、
彼らには通じず、親たちの怨嗟は募るばかりだった。

 

そして、万策が尽きて、疲弊し切った親たちは、
藁をも掴かむ思いで、高名な賢者に助けを求めた。
彼らは、理屈なら負けないと、自負する者達だった。

 

しかし、賢者たちは、勢い良く出掛けたものの、
老人と問答を交わすと、自らの無知を晒し出され、
理で語る者が、情で騙る者になり、帰って来たのだ。

 

親にしても、賢者にしても、哀れなものだった。
いったい、あの場所では、何が起こっているのか。
私には、憐みの想いと共に、好奇の思いが芽生えた。

 

従がおうと、逆らおうと、老師に惹き付けられる。

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