物語編
第六章 第五六話 物語編
第六章 迷妄 と 覚醒
第五六話 眠っている心 と 覚めている心
次の瞬間、国王として、法徳の目が覚めたとき、
そこに、天命を果たした、智徳の姿は消えていた。
止まりを知らない涙が、彼の目から零れ落ちていく。
部屋の扉を開けると、そこに控えていた者がいた。
彼らの誰もが、熱い目をして、法徳の方を見ている。
『君たちは、智徳に導かれし者たち、そうだな。
智徳は、裏切りの罪を恥じて、首を括って死んだ。
もう彼は居ない、君たちも、元の場所に帰るが良い。』
しかし、誰も、その場を立ち去ろうとしなかった。
涙の先を良く見ると、彼らの目にも涙が溢れていた。
『いま、君たちが、流している、その涙は何か。
君たちも、私と同じものを見ていた、というのか。
広間の外で、ずっと、私を待っていた、というのか。』
彼らの誰も、問いに答えようとは、しなかったが、
何より、彼らの涙が、それに応えて、激しくなった。
『分かった、もはや、我らに、偽りは要らない。
これより、地上は、主なき、暗黒の時代を迎える。
我らは、この絶望の大地に降ろされた、一筋の光明。』