物語編
第六章 第六一話 物語編
第六章 正教 と 異教
第六一話 多数が修める と 少数が修める
罪を負った智徳は、地獄の業火に焼かれていた。
しかし、身命を天命に奉げ尽くした、彼にとって、
煉獄の炎は、業を清める、涼しい風に過ぎなかった。
彼に続き、数え切れない者が、地獄に落ちたが、
彼らは、彼の本心を知らず、彼の上辺だけ真似た。
それゆえ、人々は神を怨んで、幻影の炎に焼かれる。
彼が、彼らを哀れみ、救いの糸を垂れようとも、
それを、彼らの恨みは、争いの種に変えてしまう。
度し難い、輪廻の仕組に、彼は大粒の涙を落とした。
菩薩の慈悲の涙が、演じた業を洗い流して行く。
曇り無き眼で見れば、すべての生が繋がっていた。
何処までが自分で、何処から他人か、全く解らない。
何者か解からない、透き通った歓喜に包まれる。
欲界を見渡せば、掛け替えの無い命が輝いている。
どれ一つとっても、二つとない、美しい分け御霊だ。
さて、この次は、どの生を読み解くのだろうか。
確かに、自ら選べはするが、自ら択ばないで良い。
最終的に、全て経験する事に、違いは無いのだから。
意識しなければ、自我の境界が、直ぐに消える。
無尽蔵に湧き上る、忘我の歓喜に、漂っていると、
いずこからともなく、生命の旋律が、響いて渡った。