物語編
第一章 第六話 物語編
第一章 〇〇 と ××
第六話 何でも現れる と 何でも隠れる
翌朝、私は、老師の住んでいる、洞窟を訪れた。
洞窟の前には、大勢の人々が、既に集まっていて、
朝早くから、激情に熱り立って、怒声を上げていた。
子を盗られた者や、面子を潰された者に交じり、
政府の衛兵や官吏も、集まって来ている様だった。
興奮する者の中に、冷静な者が居るのがそうだろう。
なるほど、情で訴えようと、通念で訴えようと、
泰然自若な、老師の道理には、適わなかったのだ。
残る手は、力に訴えるしかない、ということなのか。
臨界を超えた、最終日の空気が、充満している。
いまにでも、扉を打ち壊して、洞窟内に押し入り、
形振り構わず、吊し上げそうな、様相を呈していた。
老師に会えるのは、今日しか、なかったようだ。
今を逃がしては、老師は捕まり、出会えなかった。
後付けでしかない、正義の名の下、消されただろう。
この日、私が訪れたのは、必然にしか思えない。
関係が無いとは言い切れない、偶然の積み重ねに、
否応なしに、老師との縁を、感じざるを得なかった。