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物語編

第六章 第五九話 対話編

CASE 乳 海 撹 拌 壱

 

サトシ あのね、乳海撹拌って、どういう神話かな?
マサシ それはね、欲界の秩序を、回復する話なのさ。
サトシ どうすると、欲界の本分を、果たせるのかな?
マサシ 欲界とは、知恵を修めて、解脱に挑むところ。
    賢者を敬い、礼儀を尽すと、秩序が保たれる。
サトシ 天人の王、神々の帝王である、インドラさえ、
    人間の聖賢、ドゥルヴァーサに、礼を尽した。
マサシ その一方、神の王が乗る象は、知が足りず、
    花輪が示す、叡智の開花を、放り投げたのさ。
サトシ 本分を弁える、上位の者だけ、本意が分かる。
    分を忘れる、下位の者ほど、象意が解らない。
マサシ これこそ、上下が生じる、欲界の限界なのさ。
サトシ 智を研いて、出口を敬えば、欲界は続くけど、
    叡智を磨かず、出口を侮れば、欲界は壊れる。
マサシ 結果として、本懐を忘れた、欲界は呪われた。
    秩序が喪われ、無知に覆われ、良心が消えた。
サトシ 善を志した、良くの世界が、悪に染まった。
    出口を失った、混沌の世界に、逝き着くんだ。
マサシ そんな時に、悪しき神々が、襲い掛って来る。
サトシ ……………………

 


 

CASE 乳 海 撹 拌 弐

 

サトシ あのね、乳海撹拌って、どういう神話かな?
マサシ それはね、欲界の窮地を、打開する話なのさ。
サトシ 秩序を失い、善神が減じて、恩恵が去った。
    その結果、悪神が乗じて、災厄が訪れたんだ。
マサシ 天の神々は、ヴィシュヌに、解決を求めたが、
    不死の霊薬を、飲めば良いと、助言を受けた。
サトシ どうしたら、不老の甘露が、作れるのかな?
    解脱に達して、不死を迎える、薬のことだね。
マサシ その通りさ、涅槃に至れば、生死を超えるよ。
サトシ 神様の話では、凝り固まった、乳なる海を、
    一生懸命に、掻き混ぜれば、薬が出るみたい。
マサシ 欲を持つから、善悪に別れて、欲海が固まり、
    欲を解けば、善悪を越えて、欲界が溶けるよ。
サトシ なるほど、良くの凝りは、良くで解すわけか。
マサシ そうさ、上手に解けば、不死の甘露を獲る。
    その逆に、下手に溶けば、最後の仕掛に嵌る。
サトシ 欲の世界で、知恵を得れば、解脱に至るけど、
    正解ではない、解答を出せば、輪廻に戻るの?
マサシ 凝り固まり、掻き混ぜるが、永遠に続くのさ。
サトシ ……………………

 


 

CASE 乳 海 撹 拌 参

 

サトシ あのね、乳海撹拌って、どういう神話かな?
マサシ それはね、欲界の停滞を、突破する話なのさ。
サトシ 凝り固まる、良くの世界を、掻き混ぜるには、
    具体的に、何を行うよう、神様に言われたの?
マサシ 亀に化けた、ヴィシュヌは、乳なる海に入り、
    自らの背中に、マンダラ山を、背負ったのさ。
サトシ 龍王である、ヴァースキを、山に巻き付けて、
    龍の頭と尾を、引っ張り合い、山を回す訳か。
マサシ 龍の頭だけ、惹き続けても、擦り抜けるし、
    龍の尾ばかり、退き続けても、摺り抜けるよ。
サトシ それならさ、善なる神々が、半分に分れて、
    半数が龍頭を、半数が龍尾を、引けば良いよ。
マサシ それが出来れば、そもそも、凝り固まらない。
    善は善だけに、悪は悪だけに、寄り集まるよ。
サトシ どうしても、悪神の協力が、必要に為るの?
    欲望の世界を、蘇らせるには、悪魔が要るの?
マサシ 善神と悪神、両者の協同が、必須に成るのさ。
サトシ そもそも、悪神が居なければ、良かったのに。
マサシ その思いを、永遠に抱えて、凝り固まるかい?
サトシ ……………………

 


 

CASE 乳 海 撹 拌 肆

 

サトシ あのね、乳海撹拌って、どういう神話かな?
マサシ それはね、善神と悪神が、協力する話なのさ。
サトシ 巻き付けた、龍を引っ張り、山を回す為には、
    善と悪が、頭と尾を司る、必要が有ったんだ。
マサシ アムリタを、必ず分け合う、約束を結んで、
    善神と悪神は、神事に於ける、協力を誓った。
サトシ 悪と連むの、嫌だったけど、後には退けない。
    頭部を司るか、尾部を司るか、それが問題だ。
マサシ 好きな方を、選びたいなら、善に集うことさ。
    善の方が、悪の側よりも、先に択べるからね。
サトシ 龍の頭部を、引き続けると、どうなるのかな?
マサシ 龍が苦しんで、毒を吐くから、苦しくなるよ。
サトシ 龍の尾部を、引き続けると、どうなるのかな?
マサシ 龍が悶えても、口が無いから、苦しまないよ。
サトシ なるほどね、労するべきか、弄するべきか、
    それなら、迷うことなく、尾の方を持ちたい。
マサシ 先に楽なら、後で苦しむと、学ばなかった?
サトシ 楽なまま、霊薬が得られたら、問題は無いよ。
マサシ それが、君の学んだ証なら、解脱は程遠いよ。
サトシ ……………………

 


 

CASE 乳 海 撹 拌 伍

 

サトシ あのね、乳海撹拌って、どういう神話かな?
マサシ それはね、欲界の危機を、救済する話なのさ。
サトシ デーヴァは、龍の尾を選び、引っ張ったけど、
    アスラは、龍の頭を択ばされ、引っ張ったよ。
マサシ 龍王である、ヴァースキは、引き伸ばされ、
    苦しみの余り、口から猛毒を、吐き散らした。
サトシ 頭を抱えた、悪しき神々は、猛毒を浴びて、
    尾を持つ、善き神々より、疲労が激しかった。
マサシ その猛毒は、悪神ばかりか、全体に広がり、
    ややもすると、世界が滅びる、危機を迎えた。
サトシ 復活を願う、神事に拠って、破局を向える。
    欲界史上、最大の矛盾に、シヴァ神が現れた。
マサシ シヴァ神が、毒を飲み干し、救われたけど、
    その結果、シヴァの体は、青色に変ったのさ。
サトシ う~ん、そう考えると、欲界を救うために、
    神の力に、頼ってしまい、借りを作ったのか。
マサシ そうさ、欲望の解決が、欲界で完結しないよ。
サトシ それなら、欲界の存続は、神様の恩恵なの?
マサシ 借りを返す、期限の延期は、大神の温情だよ。
サトシ ……………………

 


 

CASE 乳 海 撹 拌 陸

 

サトシ あのね、乳海撹拌って、どういう神話かな?
マサシ それはね、衆生が負債を、返済する話なのさ。
サトシ この欲界は、先に楽すれば、後から苦しむ。
    その逆に、先に労すれば、後から安らぐのか。
マサシ そうさ、借りたものは、返さないとならない。
    自ずから、安楽を選べば、苦労を強いられる。
サトシ なるほどね、善神にしても、悪神にしても、
    楽をしたから、神事を行って、苦しむわけだ。
マサシ 借りを返し、欲界を甦らす、儀式の場でも、
    全ての借りを、返し尽くせず、新たに借りた。
サトシ 衆生の手で、一切の猛毒を、掬い取るべきが、
    シヴァの愛で、大半の害毒が、救い取られた。
マサシ 衆生により、掬い取られた、毒は僅かばかり。
    その殆んどは、悪神が被って、善神は免れた。
サトシ 返済のため、苦労したけど、元金は減らない。
    神に救わせた、新たな借りで、以前と同じだ。
マサシ 前回と同じ、世界が甦って、繰り返すだけさ。
サトシ それで充分だ、遣り直したら、良いだけだよ。
マサシ 悪神たちは、繰り返したいとは、想わないよ。
サトシ ……………………

 


 

CASE 乳 海 撹 拌 漆

 

サトシ あのね、乳海撹拌って、どういう神話かな?
マサシ それはね、世界の行末を、選択する話なのさ。
サトシ 至高の神に、毒を呑ませる、借りを作って、
    この欲の界は、破壊と再生を、繰り返すんだ。
マサシ 神の恩寵で、欲望の世界は、存続している。
    恩恵なくして、衆生の生命は、在り得ないよ。
サトシ 欲の世界に、生存する事が、既に有り難い。
    貴い命を、確認する事が、欲界の課題なのか。
マサシ そうさ、欲望の目的は、快楽の追求ではない。
    これらを、悟れる日まで、輪廻を繰り返すよ。
サトシ だからこそ、苦労を喜んで、返済に努めて、
    積極的に、完済に至れば、解脱に辿り着くと。
マサシ 返し切ると、欲界を越えて、神に還るけど、
    借りが残ると、欲界に留まり、元に返るだけ。
サトシ なるほどね、欲界が蘇れば、済む話じゃない。
    知恵を修めて、神界に甦るが、衆生の勤めか。
マサシ それを踏まえて、自分の務めを、選ぶべきさ。
サトシ 苦しみが多い、役目を択べと、言いたいわけ?
マサシ 強制じゃないよ、自身の良心に、従うだけさ。
サトシ ……………………

 


 

CASE 乳 海 撹 拌 捌

 

サトシ あのね、乳海撹拌って、どういう神話かな?
マサシ それはね、知恵の成就を、判定する話なのさ。
サトシ 湧き上がる、自分の良心に、従がった結果、
    僕自身は、安全に引ける、尾の方を持つんだ。
マサシ 良き心とは、自我に隠れる、真我のことさ。
    それゆえ、自我が強いと、良心に順えないよ。
サトシ 我が強いと、神に誘われず、智が生じないし、
    我が弱ければ、神に導かれて、智を招じるの?
マサシ 智が曇れば、良心に従えず、良く為らないし、
    智が晴れれば、良心に順えて、良く成るのさ。
サトシ 自分自身は、真我に習った、積もりで居ても、
    知恵が無いと、自我に倣った、事に為るのか。
マサシ だからこそ、良き心が何か、日頃から考えて、
    知恵を具えて、最後の選択に、備えるべきさ。
サトシ なるほどね、欲界の意義は、知恵を磨くこと。
    しっかり、修了できれば、卒業できるわけだ。
マサシ そうさ、繰り返し聞くけど、どちらを引くの?
サトシ 僕自身は、良心に従って、尾の方を持つんだ。
マサシ おかしいな、今迄の話しを、君は聴いていた?
サトシ ……………………

 


 

CASE 乳 海 撹 拌 玖

 

サトシ あのね、乳海撹拌って、どういう神話かな?
マサシ それはね、善悪の分別を、失敗する話なのさ。
サトシ 善神が龍尾、悪神が龍頭を、引っ張り合い、
    千年の長い間、欲望の世界を、掻き混ぜたよ。
マサシ 欲の海から、様々な存在が、生み出されたが、
    最後に至って、不死の甘露が、産み出された。
サトシ 悪の神々は、契約に基いて、分前を訴えたが、
    善なる神々は、一計を案じて、取分を奪った。
マサシ 悪い神々は、一度は確かに、手に入れたが、
    女神に誘われ、判断を奪われ、手を放したよ。
サトシ なるほどね、善神にしても、悪神にしても、
    善悪で分ける、当初の約束を、守らなかった。
マサシ 猛る悪神は、幻影に耽って、分別を怠って、
    妙なる善神は、計略に溺れて、分配を惰った。
サトシ 悪の神々は、覚醒を保てば、解脱に至れて、
    善なる神々は、独占を解けば、涅槃に到れた。
マサシ 最後の時に、本性が蘇えり、元に戻ったのさ。
サトシ 悪は善を憎み、善は悪を蔑む、欲界の仕組に?
マサシ 欲の甦りは、良くも在るし、悪くも有るのさ。
サトシ ……………………

 


 

CASE 乳 海 撹 拌 拾

 

サトシ あのね、乳海撹拌って、どういう神話かな?
マサシ それはね、善悪の超越を、示唆する話なのさ。
サトシ 善なる神は、理想に寄って、欲界を超えず、
    悪い神は、幻想に酔って、欲界を越えないの?
マサシ 悪を滅した、世界を願って、欲界に関るし、
    快楽を味わう、世界を望んで、欲界に拘るよ。
サトシ 欲の世界は、悪が無ければ、成り立たないし、
    原理的に、苦が亡ければ、成り立たないわけ?
マサシ 神話の様に、悪が居ないと、引っ張れないし、
    そもそも、先に楽をしたから、後で苦しんだ。
サトシ この神話は、欲界が蘇える、法を説きながら、
    その裏で、欲界を越える、道を解いているの?
マサシ そうさ、知恵が足りないと、前者を捕えるし、
    いよいよ、知恵が具わったら、後者に捉える。
サトシ その為には、善神の立場も、悪神の立場も、
    等しく味わい、偏りが消える、機会を待つの?
マサシ 苦手な役に、進んで挑めば、早く訪れるのさ。
サトシ 苦しくて、嫌われる役なんて、絶対に嫌だよ。
マサシ 善なる役で、悪を嫌った分だけ、返って来る。
サトシ ……………………

 


 

CASE 乳 海 撹 拌 士

 

サトシ あのね、乳海撹拌って、どういう神話かな?
マサシ それはね、善悪の立場が、逆転する話なのさ。
サトシ 本当に、善と言われる者が、善と云えるか。
    果たして、悪と云われる者が、悪と言えるか。
マサシ 実際に、善神と悪神なんて、条件で変わる。
    歴史上で、時代が変れば、評価も換わったよ。
サトシ 拝火教では、アフラは、善神と呼ばれたけど、
    婆羅門教では、アスラは、悪神に変わったね。
マサシ 拝火教では、ダェーワ、悪神と呼ばれたけど、
    婆羅門教では、デーヴァ、善神に変わったよ。
サトシ 楽を選んで、独り占めして、善の神なのか。
    苦を択ばされ、取り返したら、悪の神なのか。
マサシ 楽しい役は、誰もが求めて、空きは生じない。
    苦しい役ほど、誰もが避けて、空きを招じる。
サトシ 誰かしらが、勤めなければ、世界が終わる。
    欲界の密命に、務めるものが、悪神だったの?
マサシ これこそが、最後の仕掛け、深淵の秘密だよ。
サトシ どうして、今回は特別に、秘儀が解かれたの?
マサシ 最後だから、君達の知恵を、試しているのさ。
サトシ ……………………

 


 

CASE 乳 海 撹 拌 末

 

サトシ あのね、乳海撹拌って、どういう神話かな?
マサシ それはね、一切の見解が、転倒する話なのさ。
サトシ こうなると、何が善であり、何が悪であるか。
    僕らには、全く解らない、どうしたら良いの?
マサシ どんな欲も、善を究めると、悪に極められる。
    君の善は、取るに足らないと、諦めることさ。
サトシ う~ん、無礼を受けたから、呪いを掛けた、
    賢者こそ、欲界を牛耳る、諸悪の根源だよね。
マサシ あの聖賢は、シヴァであり、分け御霊だよ。
    知恵に事欠き、今度も又、他の所為にするの?
サトシ シヴァ神は、時を稼ぐため、毒を飲んだけど、
    僕たちが、智を磨くのか、傍で見ていたわけ?
マサシ そうさ、悪魔の責任にして、毒を浴びせたり、
    さらには、神様の所為にして、毒を吐いたね。
サトシ もう僕には、何が何なのか、全く分からない。
    ああ神様、僕が悪かったです、許して下さい。
マサシ それこそが、良心の呵責で、自我の崩壊だよ。
サトシ 凝り固まった、僕の心が、溶け出していくよ。
マサシ この境地に、辿り着くまで、掻き混ぜたんだ。
サトシ ……………………!!

 

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