物語編
第一章 第七話 物語編
第一章 矛盾 と 補完
第七話 Aである非A と Aという非A
わたしは、人々を押し分け、入り口に近づいた。
遠目に見て、神妙な雰囲気を、醸し出していたが、
近づけば、近づいていく程、入り口は奇妙に見えた。
幾重にも、鉄条網を張り、侵入者を拒んでいて、
それも、内からではなくて、外からのものだった。
この小さな領域に、全ての世界が脅えているようだ。
そして、念入りに、張り紙まで、貼られている。
そこには、街で聞いたような、噂が書かれていた。
獣の数だの、悪魔の目だの、決して善い印ではない。
そこまで、あの老師のことが、嫌いであるなら、
彼のことなど忘れ、決して、近づかなければいい。
然るに、直接、関係が無い者まで、噂に興じている。
彼を好きなのか、彼を嫌いなのか、分からない。
行なっている事と、言っている事が、克し合って、
どちらが正しいのか、意味が解からず、唖然とする。
なるほど、彼を嫌っているのは、口の先だけで、
心の中では、彼を好いている、そうとさえ見える。
嫌いかつ好き、ではなく、嫌いという好き、なのだ。
“彼らも見方を変えたら、彼の信奉者ということか。”