物語編
第一章 第九話 物語編
第一章 顕在 と 潜在
第九話 表に現われる と 裏に隠される
「我が友が、此処を訪ねて、数年が経ちますが、
いまだに、帰って来ないため、懸念して居ました。
しかし、今日こそ連れ戻そうと、決意して来ました。」
これは、この場を誤魔化すための、虚言だった。
もちろん、ここを訪問している、知人など居ない。
しかし、こうでも言わないと、我が身が危なかった。
師を助けに来た、教団の一味と捕えられるのか。
親友を助けに来た、世間の味方と捉えられるのか。
狂気か、正気か、この対立に、関心が集まっている。
敵か味方か、それ以外の切口が、あるはずだが、
探す余裕など、彼らにもなければ、自らにもない。
それゆえに、架空の友人を造り、新たな対立を作る。
「此処に友が居る」と、意識的に捉えていると、
「此処に友が居ない」と、無意識が捕らえている。
友が居る、居ないの対立に、意識が縛り付けられた。
〈そうか、君が来たのは、友を探してのことか。
疑って、済まなかった、君の無事を祈っているよ。
用心しろ、教団の奴らは、まるで、常識が通じない。〉