第一章 第十一話 対話編
CASE 定立 の裏に 反立
マサシ いかなる意味も、表と裏が同時に生まれる。
Aが生まれるとき、非Aも産まれているのさ。
マナミ 解からない、それって、どういうことなの?
マサシ 意味は、Aと非Aの違い、つまり、非なのさ。
Aそのものに、非Aそのものに、意味はない。
マナミ 解からない、それって、どういうことなの?
マサシ Aから非Aを見ると、非Aの意味が表れて、
非AからAを見るとき、Aの意味が現れるよ。
マナミ 未だ解らない、それって、どういうことなの?
マサシ じゃあ、Aを観じると、裏で非Aを感じる。
即ち、Aと非Aの実感は、同時に増減するよ。
マナミ Aが好きになり、裏で、非Aが嫌いになり、
非Aを嫌いになり、更に、Aが好きになるの?
マサシ うん、繰り返すほど、意味は大きくなるし、
さらに、折り返すとき、意味は逆になるのさ。
マナミ 分かった、解らなかったことが、分かったの。
マサシ その実感は、いつ高まったか、判っている?
マナミ 解らない、そう言い続けたから、高まったの?
マサシ そうさ、解からないものほど、分かるんだよ。
マナミ ……………………!!
CASE 定立 の先に 反立
サトシ 表を感じる、定立って、どういうものかな?
メグミ 定立とは、Aであるって、表に現れる意味よ。
サトシ 裏を感じる、反立って、どういうものかな?
メグミ 反立とは、Aでないって、裏に隠れる意味よ。
サトシ Aであると、非Aでないは、同じことなの?
メグミ そうなの、否定とは、反対を肯定すること。
否定しても、肯定しても、固定しているのよ。
サトシ Aを固定するとき、非Aも固定されるから、
定立と反立って、同時に、強くなっていくの?
メグミ うん、Aが固まるほど、非Aも固まるから、
Aであると、Aでないが、強くなっていくの。
サトシ ということは、Aでないを、強めることなく、
Aであるだけを、強めることは、出来ないの?
メグミ うん、片方だけを、強めることは、無理だよ。
サトシ じゃあ、君が好きを、意識的に、強めるほど、
同じ様に、君が嫌いも、無意識に、強くなる?
メグミ いつか、君が好きは、君が嫌いって、変るよ。
サトシ 残念だな、それが、本当だったら、残念だな。
メグミ うふっ、ありがとう、とても巧いと、思うよ。
サトシ ……………………!!
CASE 定立 と 合立 と 反立
マナミ ねぇ、テーゼ、定立は、どういうものなの?
マサシ 定立は、Aであり、非Aでない、ってことさ。
マナミ アンチテーゼ、反立は、どういうものなの?
マサシ 反立は、Aでない、非Aである、ってことさ。
マナミ ジンテーゼ、合立って、どういうものなの?
マサシ 合立は、Aという、非Aである、ってことさ。
マナミ じゃ、定立と反立は、矛盾として捕えるけど、
進んで、合立になると、補完として捉えるの?
マサシ うん、高次を認めないと、相として見えて、
さらに、高次まで認めると、層として見るよ。
マナミ それなら、人生って楽しいが、定立のとき、
その裏、人生って楽しくないが、反立だよね?
マサシ 一方、楽しいこともあり、苦しいこともある。
これは、定立と反立を、往復しているだけさ。
マナミ じゃ、苦しい、それこそ、楽しいが合立なの?
マサシ そうさ、Aの時もあり、非Aの時もあると、
時を介し、条件で別つと、合立とは言えない。
マナミ そっか、どちらも、同時に、受け容れるのね。
マサシ 解からなかった、だからこそ、分かったのさ。
マナミ ……………………!!
CASE 反立なき定立 と 定立なき反立
サトミ 定立と反立、どちらを、重んじるべきかな?
メグミ どちらも、同じぐらいに、重んじるべきなの。
サトミ 表を立てる、定立って、どういうものかな?
メグミ 定立とは、Aであるって、表を観じることよ。
サトミ 裏を立てる、反立って、どういうものかな?
メグミ 反立とは、Aでないって、裏を感じることよ。
サトミ 定立を望み、反立に臨まないと、どうなるの?
メグミ 反立なき定立なんて、唯の反立に過ぎないよ。
サトミ じゃ、表を観じようと、裏を感じていないの?
メグミ そうよ、有り得ないから、裏を見てしまうよ。
サトミ 反立を望み、定立に臨まないと、どうなるの?
メグミ 定立なき反立なんて、只の定立に過ぎないよ。
サトミ じゃ、裏を感じようと、表を観じていないの?
メグミ そうよ、在り得ないから、素を見てしまうよ。
サトミ 定立だけでは、裏を感じず、成り立たないし、
反立ばかりでは、表を観じず、成り立たない?
メグミ うん、定立と反立、その両方が、必要なのよ。
サトミ じゃあ、定立を究めて、反立を極めていくの?
メグミ うん、定立を超えて、反立を越えていくのよ。
サトミ ……………………!!