物語編
第一章 第十二話 物語編
第一章 因 と 果
第十二話 実感を現わす と 実感が現れる
これは、ほんの数秒のことではあっただろうが、
意識が飛んで、我が身は抜け殻の如くなっていた。
人々のみならず、私の中にも知らない闇が存在した。
この洞窟全体に、魔力が秘められているようだ。
人々を誘き寄せて、中に入った者に幻想を魅せる。
その幻想たるや、真実ではないが意味がなくもない。
縁も所縁もない、幻想ならば看破も出来ようが、
見る者の心の闇に、潜む陰だからこそ、質が悪い。
その幻想こそが、真実と思い込んで、取り込まれる。
危なかった、これが、この洞窟の主の力なのか。
心の闇を噴き出させて、見る者に問を突き付ける。
実体の無いものに、実感を見とめる、実情を嘲うか。
絵巻を眺める程度に、巻き込まれない内は良い。
しかし、幻想の最中に、大事な者を見てしまえば、
幻想から、抜け出すこと、それ自体が恐怖となろう。
この魔窟を創造した、老師とは一体何者なのか。
今日、私が来ることも、老師は見えるのだろうか。
すでに、来ていることも、今も、見られているのか。