物語編
第一章 第十四話 物語編
第一章 低次 と 高次
第十四話 意味する次元 と 意識する次元
扉の向う側には、先と同じ光景が広がっていた。
大勢の人が集まり、無言のまま緊張を保っている。
良く似ていたが、全く異なる点は、時の密度が濃い。
およそ、限界の緊張の中に、異物が紛れ込んだ。
私の方に、人々の視線が、一斉に寄せ集められる。
人々と、視線を押し分けて、訝しむ衆目の中を進む。
〈貴様は、好奇心で入れる境界を、優に超えている。〉
屈強な兵士に、肩を掴まれて、引き寄せられた。
大きな顔が、目の前に現れ、目の奥まで覗かれて、
言葉は疎ろか、息が届くまで、近くに詰め寄られた。
強引な応対に、些か怯んだが、少し慣れて来た。
心の奥まで、透かされないよう、目を見つめ返す。
諸刃の剣だが、平静を纏えるなら、欺ける筈である。
この中に友が居ること、友を救う為に来たこと。
敵意が無い事を示すため、誠実な嘘を吐けば良い。
その虚構が完成すれば、今度も味方に為ってくれる。
繰り返すことで、練り上げられた、架空の話に、
何時の間にか、整合性が生じて、無理が無くなる。
慣れ過ぎて、話している自分から、信じ掛けている。